ステークホルダーとの合意の取りまとめがうまくいっていないと、後から変更要望が続出する。稼働時期を見直してでも変更要望を受け入れるのかは、大方針を再確認してから対応を決める。再発防止には、プロジェクト方針の共有とスコープ調整の仕組みの整備が重要だ。

Before
変更要望はあとどれだけ出てくるのやら

 ビーピー出版の総務申請系ワークフロープロジェクトのプロジェクトマネジャー(PM)、田村玲奈は、メールボックスを眺めてため息をついた。

 そんな彼女のPCの横に、柳川グループ長が包装紙に包まれた卵のようなものを置く。

 玲奈は、顔を上げて柳川を見た。

「何ですか?」

「パンプキン饅頭。温泉のおみやげだよ」

 と、柳川は説明した。

「ああ。ありがとうございます」

 玲奈の口調はそっけない。そういえば、柳川グループ長は、先週の木曜日から2日間の有給休暇を取得して温泉旅行に行っていたのだ。

「いやー、何もかも忘れて温泉三昧。のんびりしたよ」

「それはよかったですね」

 変更要望の嵐でこっちがきりきり舞いしている間に、何もかも忘れて温泉三昧ですって?

 柳川グループ長は、自分用のパンプキン饅頭の包装紙を引き破ると、間延びした声を出す。

「甘いものがいいんだ。イライラしてるときはね。血糖値を上げれば、その分頭も働きやすくなる」

 怒るよりもあきれてしまった玲奈は、キーボードから手を離して、柳川グループ長の顔を見つめた。

 饅頭を割ってうれしそうに口に入れる柳川の能天気が感染したように、玲奈は饅頭を手に取り、しばらく眺めてから、包装をはがして一口かじった。

「そんなに甘くないですね」

「でも糖分は入ってる。さて、その顔つきからすると、また変更要望が入っているのかな?」

「そうなんです」

 玲奈は、饅頭の残りを食べてから、くず入れの上で両手をはたいた。糖分を補給しても、あまりいら立ちが緩和された感じはしない。

「今度は営業部門の所課長からです。バッチによる申請期限のチェック条件を緩和してもらえないかと」

 休暇中だったはずなのに、柳川は変更依頼の内容を把握しているようだった。

「不在がちな営業部としては、起票後3日以内というチェック条件を緩和してほしいってやつだね。しかし、外部設計書のレビューは終わってたはずだよね?」

「はい。10月末には設計承認が完了しています。ただ、そのときには、営業部に相談はなかったってことで」

 柳川は、少し考えた。

「そうか。承認したのは総務部だったね」

「あのときは、情報システム部と総務部が取りまとめの窓口になってましたから」

 柳川が指摘したように、基本設計書の承認は全て終わっていた。ところが、詳細設計を経て実装が終わり、ユーザーによる「事前シミュレーション」が今月始まった途端、関連部門からの変更要望が続出し始めたのだ(図1)。取りまとめ部門の情報システム部と総務部が十分機能していなかったのか、それとも関連部門がこれまでまともにレビューできていなかったのか…。

図1●委託関係から生じた2つの問題
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 柳川グループ長は、首をひねった。

「総務部からも、変更依頼が上がってなかったっけ?」

 玲奈はうなずいた。

「はい。先週来た分ですね。申請期限を画面でチェックするようにしたいって」

 柳川グループ長は、顔をしかめた。

「営業部のリクエストと矛盾するね。そもそも、バッチで期限チェックをしてワーニングを出すって言い出したのは総務部じゃなかったっけ?」

「そうなんですけど、監査部にねじ込まれたようなんです。そもそも今回のプロジェクトの目的の1つは、事務ミスを減らすことだったはずなのに、申請遅延を事後のワーニングで済ますのはいかがなものかって」

「で、総務が折れたわけだ」

「ですね。その他にも、旅費精算を起票する立場の開発部と業務部から、経路設定画面と連動して金額を設定できるようにしてほしいって要望が出ていますし、精算書のデフォルト行数を増やしてほしいとか、適用の桁数を増やしてほしいって話が。経理部からも、帳票8種類に申請内容の印刷機能を付けてくれって」

「印刷機能って何?」

「窓口の締めの時刻に、手元の入力原票と入力した内容を突き合わせたいらしいです」

「そんな話、これまで一切出てなかったよね」

 玲奈は、首を横に振った。

「出てません。現行の業務フローにも記載されていないんですが、一昨年に事務ミスが発生したときに、経理部で独自にチェックする運用になったそうで…」

 柳川グループ長は、肩をすくめた。

「結局、事前シミュレーションを始めてから、変更要望は何件出ているのかな?」

 玲奈は、一覧表を画面に呼び出して確認した。

「63件…、いいえ、未反映の4件を加えると、最新で67件になりますね。事前シミュレーションが終わる前に、あとどれだけ出てくるのやら」

 プロジェクトには、コストや期間の制約がある。全部を受け入れるわけにはいかないのは確かだが、実施要否を調整するだけでも相当手間取りそうだ。変更要望に振り回され、検証作業も影響を受けることになる。

 玲奈はあきらめ顔で、首を横に振った。

 玲奈さん、実装が終わった段階での変更要望続出で、大変な状況になっているようです(図2)。こんな状態になったときにどう対処すればよいのか、考えてみましょう。

図2●変更管理とステークホルダー管理のトレードオフ
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