法律やガイドラインなど、必ず守らなければいけないルールが「コンプライアンス」である。コンプライアンス対応によって、作業が滞ったり、業務の遂行が不便になったりすることがある。対策は抜け道を探すことではなく、ルールを前提に効率化や問題の回避策を考えることだ。

 プロジェクトマネジャー(PM)の前に立ちはだかる邪魔モノ、プロジェクトの進行を阻む阻害要因とどのように向き合っていけばよいでしょうか。今回は「コンプライアンス」を取り上げます。

ミッション1 作業停止命令
「契約の裏付けのない作業はダメ」

「ちょい待ち。そのプログラム、まだ修正しちゃダメよ」

 須藤和子の言葉に、ディスプレーに向かっていたSEの菊本基とプログラマーの野田萌は凍りついた。2人は、虎の門アド社の人材管理システムレベルアッププロジェクトを担当している。須藤はこのプロジェクトのPMだ。菊本が、口ごもりながら質問する。

「な、なんでですか?」

 須藤は、パーティションに画びょうでとめた卓上カレンダーを指差した。

「まだ発注をもらっていないもの。中途採用時の仮評価の機能でしょ、それ。昨日見積書を出したばかりだから、注文書が来るまで1週間かかるとして、請け書を発行するのは…、そうね、早くて7日」

 野田が早口で言う。

「でも、もう仕様は固まっているし、レビュアーの大森さんが休みに入る前にやっちゃいたいんですよね。結合テストに間に合わなくなるとまずいですから」

 須藤が顔をしかめる。

「そうね。DBレイアウトも変更になるから、デグレ(デグレード)が起こらないように結合テストは丁寧にやっておきたいし。でも、まだダメ」

 須藤の言葉に、菊本の声がかぶさる。

「ひょっとして、データベース定義も変更したらいけないってことですか?」

 須藤は、極めて軽い口調で答える。

「ピンポーン。ダメに決まってるでしょ。コンプラ上、契約の裏付けのない作業をするわけにはいかないわ。しかも、虎の門アドさんとの間には基本契約がなくて、個別契約だけなんだから」

「え、コンプラって?」

「個別契約ってどういうことですか?」

 同時に反問した2人に向かって、須藤は人さし指を立てた。

「2人とも、まずは、社内ルールを調べることね。『受注事務マニュアル』を読みなさい。そうそう、ついでに、例の新規提案の件、反社チェック申請の手続きもお願いしておく。よろしくね~」

 菊本と野田は、互いに顔を見合わせた。

 自分たちは、スケジュールに遅れないように、仕事を進めたいだけなのだ。そもそもコンプライアンスって、なんだろう。法令順守という訳語は知っているけれど、自分たちが何か法律に違反しているとでも言うのだろうか。それに、基本契約だの個別契約だの、須藤PMは一体何を言っているのか。

 反社チェックのほうは、かろうじて菊本の記憶にある。しかし手順の詳細は曖昧だった。調べるしかない。

 菊本は、ため息をついた。須藤にストレートに聞いても、「まずは原典に当たること」といういつものせりふが返ってくるだけだろう。「方法ではなく調べ方を教える」というのが須藤の信条なのだ。

 「コンプラ」という呪文が唱えられると仕事が増えていく仕組みになっている(図1)。菊本は肩をすくめると、社内手引き集のポータルページを開いた。

図1●コンプライアンスを守るためにプロジェクトの進捗が滞る
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