リスク管理で目指すのは、リスクをなくすことではなく許容範囲までコントロールすることだ。リスクの発現確率と発現したときの影響を見積もり、管理対象のリスクを絞り込む。なじみのあるリスクを過小評価してしまう「錯覚」や「気分」にも注意しよう。

Before
残りを片付けるのに1時間はかかります

「それでは、次のリスクです。項番32、海外旅費規定の改定遅延…」

 プロジェクトマネジャー(PM)の田村玲奈は、議題を次に進めようとしていた。

「あ、ふあーあ」

 柳川グループ長の大あくびが、玲奈の気勢を削いだ。彼女は、厳しい顔で上司の気の抜けた顔をにらんだ。

「ちょっとグループ長、まだ進捗会議は終わってないんですよ!」

「ごめんごめん」

 悪びれた様子もなく、柳川は口先だけで謝罪する。

「でもさ。もう7時だぜ。進捗会議は6時までの予定だったろ?」

「そうですけど。まだ議題が残ってるんですから、仕方ないじゃないですか」

「仕方ない、ねぇ」

 柳川グループ長は、左手のレバーを動かして、いすのリクライニングをリリースした。両手を頭の後ろで組み、上体を大きく後ろに傾ける。

「そんなことじゃ、時短は進まないな。人事からきついお達しが来てるのにさ。とにかく、早いとこ残りを片付けてしまおうよ。もう宴会に遅刻してるんだから」

 さすがの玲奈も、むかっ腹を立てた。

「だいたい、柳川さんの都合で開始時間を遅らせたんですよ。何なら先に帰っていただいて、残りのメンバーだけで継続しましょうか?」

「というわけにもいかない、かな?」

 グループ長の声にかすかな期待を嗅ぎ取って、玲奈は厳しくくぎを刺した。

「明日の午後からステコミなのに、リスク一覧表を共有しておかないと、さすがにまずいでしょう?」

 グループ長は、組んでいた右手を外すと、頭の横でひらひらさせた。

「だよな。分かった。認める。確かにおっしゃる通り。僕もステコミに出席するんだからね。しかしねぇ、これはボリュームがあり過ぎるよ。一覧表が5ページもあるんだろう。8時になっても終わらないんじゃないかなぁ。そう思わない?」

「それは…」

 リスクの評価とヘッジ策を説明してグループ長の承認を得る。確かに、この調子で進めたらあと1時間以上かかりそうだった。

 進捗会議に出席している2人のプロジェクトリーダー(PL)も、既にうんざりしたような顔をしている。玲奈は口ごもりながら答えた。

「まあ、もうちょっと、かかりそうですけど…」

「そうだ!」

 素晴らしいアイデアを思いついたというように、柳川グループ長は両手をたたき合わせた。

「今日はこれまでにして、明日、改めて続きをやろう。な、そうしよう」

 玲奈は唇をかむ。

「そんな時間はないでしょう?今日やったって明日やったって、1時間以上かかるのは同じなんですから」

「そこだよ、そこ」

 グループ長は、うれしそうに叫んだ。

「明日、30分で片付けるように整理しておいて」

 玲奈の目がつり上がった。

「そんな。無茶言わないでくださいよ」

 柳川は、本気で言っているようだった。

「ちっとも無茶じゃない。よし、ヒントを出そう(図1)。まず、リスクを取ることを前提に考える。それから、ここにある一覧表から、大事なもの5つに絞るんだ。で、対策はいらない。まずリスクと影響だけに絞っていいよ。それなら30分で終わるだろ。頼んだよ。じゃあ、僕は宴会があるから、これで」

図1●リスク一覧表の整理の仕方とは?
[画像のクリックで拡大表示]

「ちょっと、柳川さん、ちょっと…」

 玲奈の呼びかけは空しかった。グループ長は、資料を乱暴にデスクの引き出しに放り込むと、さっさと席を立った。

「じゃあ、明日よろしく」

 という能天気な言葉を残して、グループ長は本当にいなくなってしまった。

 玲奈は、ため息をついた。

「いつものこととはいえ、柳川さん、勝手なんだから。あれだけのヒントで、どうすればいいって言うのよ、全く」

 さて、玲奈さん、途方に暮れてしまったようですね。最近のプロジェクトで、リスク管理をしていないものはまずないでしょう。ただし、うまく管理できているかどうかとなると、また別の話です。捉えどころのないプロジェクト管理の中でも、特に捉えどころがないのが「リスク」。明日までにどう整理すべきか、玲奈さんと一緒に考えてみましょう。

 本来のリスクは、プロジェクトにプラスの影響を及ぼす事象(好機)も含みますが、話を分かりやすくするため、本稿ではマイナスの影響(脅威)に絞って記載することにします。

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