量子コンピュータという文字を目にする機会が増えてきた。米IBMや米グーグルなどが実用化を急ぎ、富士通や日立製作所といった日本のコンピュータメーカーも研究開発に注力している。量子コンピュータはこれまでのコンピュータと何が違い、何ができるのか。企業システムの開発は大きく変わるのか。その実態を明らかにする。

 量子コンピュータが企業システムの現場にやってくることは当分ないだろう―─。こう考えているITエンジニアは、考えを変えるタイミングが来ている。量子コンピュータについて今、押さえておきたいポイントは3つある。

量子コンピュータについて押さえておきたい3つのポイント
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 1つは実用化に向けた動きだ。既に実用化を見据えたユーザー企業やITベンダーが登場している。

 2018年5月には、化学メーカーのJSRや三菱ケミカル、大手銀行では三菱UFJ銀行とみずほフィナンシャルグループが慶応義塾大学と協力し、米IBMの商用量子コンピュータ「IBMQシステム」を利用して、実用的なアプリケーションの開発を進めることを表明した。

 量子コンピュータの開発も加速している。国内外の大手ITベンダーが今、こぞって量子コンピュータの研究開発に注力。富士通は2018年5月に、日立製作所は6月に相次いで量子コンピュータから着想を得た新型コンピュータを、クラウドサービスとして提供すると発表した。

大手IT ベンダーの量子コンピュータに関連した主な取り組み
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 システム構築を担うITベンダーも動き出している。2018年度の研究開発のテーマの1つとして、量子コンピュータを取り上げるのが、クラウドSIを得意とするテラスカイだ。

 テラスカイは量子コンピュータをSIとしてユーザー企業に導入するのではなく、「量子コンピュータを使ったデータ分析などのサービスを提供していきたい」と竹澤聡志CTO(最高技術責任者)は話す。サービスメニューとして有望とみているのが、シミュレーション分野だ。生産計画の立案や物流ルートのシミュレーションなどへ量子コンピュータの適用を考えている。

Pythonで開発可能に

 量子コンピュータの動きとして押さえておきたい2つめのポイントが、量子コンピュータを使うための開発環境の充実だ。

 米IBMは2016年5月に量子コンピュータのクラウドサービス「IBM Q Experience」の提供を開始した。IBM Q Experienceは無料で利用可能で、かつGUIベースの開発ツールを提供している。既に8万5000人が利用しており、「ITエンジニア個人や学生、研究者、ユーザー企業など幅広い」と日本IBMの小野寺民也 東京基礎研究所副所長は説明する。

米IBMの「IBM Q Experience」の画面例
上が5量子ビットのコンピュータの状態を示し、下がGUIベースの開発ツールになっている
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米IBMの量子コンピュータ「IBM Q」の概観
(画像提供:米IBM)
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 GUIベースの開発ツールのほかにも、米IBMは量子コンピュータ向けのアプリケーションを開発するための「QISKit」もOSS(オープンソース・ソフトウエア)として提供している。QISKitではPythonを使ってアプリケーションを開発できる。

 米マイクロソフト(Microsoft)も2017年9月に量子コンピュータ向けのプログラミング言語「Q#」を発表した。

 Q#や量子コンピュータのシミュレーターを提供する「QuantumDevelopment Kit」を、Visual StudioにインストールしてQ#を利用できる。Quantum Development Kitも無償で入手可能だ。

 最後に押さえておきたい量子コンピュータの3つめのポイントが、適用分野はまだ手探りということだ。

 量子コンピュータは主に「量子化学、機械学習、最適化の3分野に向く」(日本IBMの小野寺副所長)が、ハードウエア、アプリケーションともに進化中で、多くのエンジニアが実用化に向けて研究中だ。

 ガートナージャパンの亦賀忠明リサーチ部門バイスプレジデント兼最上級アナリストは、「これまでの情報システムの延長ではなく、全く別のフェーズに量子コンピュータの用途があると考えたほうがいい」と話す。今後数年の間に、様々なアプリケーションが登場しそうだ。

 以下では、量子コンピュータの仕組みや実用化に向けた大手ITベンダーの取り組み、今後の展望などについて、野村総合研究所の藤吉 栄二氏が解説する。

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