ITの職場においても人材育成という永遠の課題に悩む上司やリーダーは多い。新連載ではプロジェクトに参画したメンバーを鍛えるという状況設定で、いかに部下を育てるかのノウハウをコミュニケーション術の観点でお伝えする。

 ITベンダー、カセイシステムの土屋洋介は最近、目が回るほど忙しくなってきている。土屋はもともと顧客であるスイセー社のシステム開発チームのリーダーだったが、人手不足の折、3カ月前からシステム運用管理チームのリーダーにもアサインされている。運用管理チームは土屋をリーダーとして、部下の不知火桂介とパートナー会社の技術者の3人で現場を回している。最近は開発チームの仕事も忙しくなり、不知火に現場を任せる機会も多くなってきた。

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 土屋が不知火と同じ案件で一緒に仕事をするのは、4年前のシステム開発プロジェクト以来だ。不知火には、半年後に控えている運用管理業務の大幅改良を、リーダーとして率いてほしいと思っていた。ところが肝心の不知火は、土屋が期待したほど成長していなかったのだ。

 不知火は指示されるときっちりこなすのだが、それ以上のことをしようとしないし、不安になるとすぐに「どうしましょう」と頼ってくる。これまでその都度、考え方も含めて手取り足取り指導してきたが、それが身に付いていないように感じる。

 最近は土屋が開発チームのミーティングなどで離席していることも多いため、不知火はメールでいろいろなことを確認してくる。先日の障害対応の際には、障害状況を長々と書き連ねたうえ、最後に「どうしましょうか」と指示を仰いでいた。土屋は「メールするくらいなら、パートナー会社の技術者と一緒に対応策を考えてくれよ」とがっくりきてしまった。

 そんなとき、社外セミナーで妻夫木吾郎という人材育成コンサルタントと知り合いになり、相談に乗ってもらえることになった。妻夫木はIT業界での経験も長く、今は人材育成のプロとして活躍している。

 ある日の夕方、土屋は妻夫木を食事に誘い、不知火の育成をどうしたらよいのかアドバイスが欲しいことを話した。

 妻夫木は一通り話を聴いた後で土屋に質問した。

「土屋さんは不知火さんにどうなってほしいのですか」

「早く一人前になってほしいですね。そして半年後に迫っている運用管理の大幅改良のリーダーとして独り立ちしてほしいんですよ」

「一人前ってどういうことですか」

「それは自分で判断して動くってことですよ」

「不知火さんにはどの程度伝わっているんですか」

「正直言って分かりません。自分で判断して動く必要性を伝えたことはありますけど」

「ところで不知火さん自身はどう思っているのでしょうね」

「本当は上流工程から関わる開発をやりたいと言っていたのを、人づてに聞いたことはあります。でも、運用管理の現場を知ることも大切だと思うんですけどね」

 しばらく時間をおいてから、妻夫木が尋ねた。

「土屋さん、オンボーディングっていう言葉を知っていますか」

「何ですか、それ」

「どうやって一人前にしていくか、育成のプロセスみたいなものです。私が考えた簡単なモデルがありますので、そのモデルをベースに不知火さんを育成するためのポイントを話しますね」

 そう言うと、妻夫木は図を描き始めた。

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