ユーザー企業が抱く期待と、現状のクラウドの間には2つのギャップがある。1つは「過剰な期待」、もう1つは「オンプレミス環境との差異」だ。これが実際にクラウドを使ったときの「がっかり」を生み出す。ギャップを埋めるためのポイントを、5つの観点で押さえよう。

 日本のユーザー企業がクラウド活用を本格化してきた。従来は、周辺システムなど“軽い”システムが中心だったが、基幹系システムに踏み込む企業は増えている。

 AGC(旧旭硝子)は2018年12月、欧州SAPのERP(統合基幹業務システム)を含む140以上の基幹システムを、AWS(Amazon Web Services)上へ移行完了したと発表。2014年8月にAWSの採用を決めてから、物流や販売などを担う国内向け基幹システムをAWS上に順次移行してきた。

 こうしたユーザーがある一方で、「こんなものなのか」とクラウドに幻滅した声も聞こえてくる。原因は、ユーザー企業の抱いている期待と、現状のクラウドとの間にギャップがあるからだ。ギャップに遭遇し、クラウドへの移行計画を取りやめたり、利用するサービスの変更を余儀なくされたりする企業は少なくない(図1)。

図1●ユーザーがクラウドに抱くギャップの正体
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 ギャップは2種類ある。1つは、ユーザーがクラウドに抱く期待が、実際の実力以上の場合。クラウドに移行しても思ったほどメリットが得られずに落胆してしまう。

 もう1つは、これまでオンプレミス(自社所有)環境で培ってきた開発や運用のノウハウが、クラウドで通用しないケースだ。クラウドのサービスは便利な半面、制約も多い。その壁に突き当たってしまう。

 こうしたギャップはどうしたら埋められるのか。多くのユーザーが直面するギャップは「コスト」「信頼性」「機能」「セキュリティー」「開発・運用」の5つ。順番に対策を探る(図2)。

図2●クラウド活用で「がっかり」しないための5大ポイント
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性能や信頼性の見直しは必須

 クラウドに移行したのにコストが下がらない。このギャップにぶつかるかどうかはシステムによる。夏休みや年末・年始といった短期間だけ動かすようなシステムであれば、クラウドへ移行したほうが安くつく。

 しかし、こうしたピーク性の無い多くのシステムでは、コストは性能や信頼性とのトレードオフで考える必要がある。野村総合研究所 基盤サービス本部 産業基盤サービス部の北條学男上級テクニカルエンジニアは「クラウドではそのままでは信頼性が低い部分がある。だからといって、信頼性を高めようと何でもかんでも2重化や3重化していては、コストがかさむ」と話す。

 クラウド移行のアセスメントサービスを提供するNECの上坂利文 サービスプラットフォーム事業部長は「ユーザーのニーズをそのまま実現しようとすると高額になりがち。事前に要件と実現手段の検証を実施すべき」と指摘する。オンプレミス環境からクラウドへの移行では、改めて必要な性能や信頼性を見直さなければ、最適なコストは導き出せない。

 コスト試算では、クラウドサービスの料金体系への理解が欠かせない。利用した分だけ料金を支払う従量制が基本だが、サービスによって「使った分」の解釈が異なることがありギャップになり得る。

 例えばFinTechアプリ用のビッグデータ処理基盤をMicrosoft Azureに構築したある金融機関A社は当初、クラウドサービスの利用料が想定コストに収まらなかった。利用したのは「Azure HDInsight」という分散処理サービスだ。

 コストがかさむ原因はHDInsightの課金方式にあった。HDInsightでは、データ処理の実行時間だけでなく、待機中のアイドル時間も課金される。利用する仮想マシン群(クラスター)を構築した時点から、それを消去するまでの時間全てが課金対象になる。

 A社では当初、クラスターを構築したままにしておく構成を考えた。しかし想定を超えるコストが発生するため、定期実行するバッチ処理のジョブに絞ってHDInsightを利用し、ジョブごとにクラスターをこまめに起動/削除する仕組みを整えた。この工夫によりHDInsightのコストを想定内に収めた。

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