プロジェクトの完遂という目的は一致しているはずなのに、立場や力関係の違いがトラブルを招く。個人対個人の対立がハラスメント問題にまで発展し、プロジェクトの進行を阻害してしまうこともある。感情的な対立やリスクの押し付け合いは即刻やめ、本来の役割分担を取り戻す策を打とう。

その要求の仕方はパワハラでは?

 基本設計セッションは、明らかに個人攻撃の場になって異様な雰囲気に包まれていた。

「あなたねぇ、何も考えていないんじゃありませんか?」

 この2時間で何度目かの大友課長の怒号が響き渡る。言葉は割と丁寧だが、言い方は威圧的だった。標的にされたPL(プロジェクトリーダー)の伊東は、ぼそぼそとした口調で答える。

「いえその、考えていないことはありません。あのー、中間勘定への振り替えについて、そのー、明確にする必要があるわけで、その仕訳について、あのー…」

 伊東は、ホワイトボードにTの字を書いた。

 大友は、わざとらしくため息をついて言い返した。

「そんな仕訳、いくつ書いても同じですよ。伊東さん、あなたうちの本支店会計の基本が分かってないでしょ」

 伊東は、返す言葉を失っているようだった。もともと伊東は、打てば響くといったタイプではない。目から鼻に抜けるタイプの大友課長とは対照的だった。

「本支店勘定はね、あくまで仮のものなんですよ。勘定元帳上では、全ての出入りは本科目に振り替えられる。支店や営業所は、入金があれば本科目未定のまま仮に受け、請求書が来れば仮に支払う」

 大友課長は、伊東の手からペンを奪い取るようにして、恐るべき速さで3つのTを並べて仕訳を書いた。

「これが入金、これが請求。本科目振替はこうで、その前提として相殺伝票を切っておく。こうです」

 大友課長は、ホワイトボードから振り返ると、伊東に見下したようなまなざしを向けた。

「あなた、会計システムの経験はあるんでしょう?それとも初めてなの?それにしては単価が高いけど」

 真っ赤になった伊東は答えられない。PM(プロジェクトマネジャー)の楠が、たまりかねて口を挟んだ。

「中間勘定の扱いは会社によって違いますし、業務によって異なる場合もあります。例えば、今お書きになった相殺伝票ですが、取引口が異なる場合には相殺せず、口ごとに整理する場合もあります。伊東は、御社の考え方を確認したかったのだと思いますよ」

 穏やかな楠の口調に大友課長はやや落ち着きを取り戻したものの、伊東をにらみつけるのはやめなかった。

「それだったら、今の楠さんみたいに、質問の意図をクリアにしてくださいよ、伊東さん」

 大友課長は、楠に視線を向け直してから、続けた。

「さっきから聞いておられたでしょう?いつもこの調子なんですよ、楠さん。正直申し上げて伊東さんでは、基本設計セッションを進めていただくのはきつい」

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