AI(人工知能)を活用したシステムは、推論モデルの作成や学習、試行を早いサイクルで回すことが効率の良い開発に不可欠だ。推論モデルの作成や学習には、AWSの「SageMaker」を利用できる。「Greengrass」でエッジとクラウドでの協調処理を実現し、AIとIoTを組み合わせたシステムを構築する。

 筆者は本誌2015年4月号から1年間にわたって、「実践AWS!企業クラウドの設計パターン」「クラウドだからできる新システムとその設計法」という2つの連載記事を執筆しました。これらは、Amazon Web Services(AWS)を使って特定の要求を満たすための業務システムの「設計パターン」を解説するものです。Webシステムやデータ分析システムといった定番の業務システムを取り上げました。

 その後AWSは大きく進化しました。その典型が、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)といった技術に関連するサービスの提供です。AIやIoTの活用には、今やクラウドが提供するサービスが欠かせません。そしてそれらを利用するには、技術やサービスの特徴を押さえた設計が不可欠です。そこで今回は、AWSが提供するAIとIoTのサービスを使ったシステムの設計パターンを解説します。

難解だったAIがフレームワークで取り組みやすく

 AIを活用する動きが、一般企業の間で広がりを見せています。難解で手を出しづらかったAIも、クラウドでフレームワークを備えたサービスが提供されるようになり、推論モデル作成と実行のプロセスに取り組みやすくなってきました注1。

 クラウドでAIの推論モデルを作成し、実行していくにはデータが必要です。データをデバイスから収集してクラウドに蓄積、AIサービスに渡すためのIoTの仕組みも欲しくなります。

 AWSには、AIの推論モデル作成とテスト、デプロイの機能を備えたプラットフォームとなるサービス、デバイスとクラウドサービス間のインターフェースとなるIoTのサービスが用意されており、効率良くシステムを開発できるようになっています。

 以下では、部品製造業のE社を例に、AIとIoTに対応する仕組みを構築する方法を説明します。

クラウドAIで製品の不良品検査を自動化

 部品製造業のE社は、取引している国内の完成品メーカーが組み立て工場を海外展開するのに伴い、国内に加え、アジア、北米、ヨーロッパでも部品製造工場を稼働させています。業績は上昇傾向なのですが、どの国でも優秀な人材を雇うのが難しく、人件費も上昇傾向です。加えて、品質の要求水準は上がり続けていて、不良品のトレーサビリティー管理のニーズが出てきました。

 これまではロット単位での不良品率の管理とトレーサビリティー管理を実施していました。それが今や、全数検査と個々の部品までのトレーサビリティーが競争上の差異化要因の1つになってきています。

 各工場で差がある品質水準を安定的に高めつつ、自動化を進めて採用難と人件費高騰に対応する手段として、AIの活用を検討することにしました。部品の検査工程のうち、熟練した人材が目視でチェックしている一部の工程を、AIで代替する可能性に着目したのです。

 これまでは、センサーで計測した値をルールベースのしきい値で判定する工程と、熟練工が目視によって判定する工程を組み合わせていました。AIであれば、より複雑な条件を基にして、熟練工と同じかそれ以上の精度で判定ができるのではないかと考えました。

 IoTを同時に利用すると、トレーサビリティー管理も実現できそうです。AIで全数検査に対応しつつ、判定する際に部品の製造番号と判定結果、画像などをクラウド上のデータベースに記録しておけば、不良品が発見された場合にたどることができ、検査の際のデータを品質管理にフィードバックできるメリットもあります。

 システム化するうえで、クラウドサービスの利用がフィットすると考えました。各工場にはAIやIoTに通じた技術者がいるわけではありません。そのため、設置する機器やサーバー類は、利用するうえでどうしても工場に置かざるを得ないものだけにしたいと考えています。

 何より、AIを賢くするためにはデータを1カ所に集約して学習させる必要があります。AI関連のサービスが用意されているのも、クラウドを利用することにした理由の1つです。

 AIは通常の業務システム開発と異なり、計画的に設計、開発できるとは限りません。どのように学習させれば成果につながるか、様々な方法を試してみないと結果が出るかどうか分からないからです。そのため、学習と試行を早いサイクルで回していくことが、より短期間でAIシステムを完成させることにつながります。サイクルを早く回すために、クラウドで用意されているAIのサービスが役に立つと考えました。

 工場から、クラウド上にあるAIサービスにデータを渡すまでの橋渡しとなるIoTサービスの必要性も感じていました。大量に発生するデータを、クラウドに低コストで安全に送付したいのです。クラウドとの通信、認証、推論モデルのデプロイの機能を作り込むには時間と費用がかかります。センサーのデータはそのままの形では蓄積、学習に適さないものがあるので、情報の付加、変換をしてからデータベースにどう格納するかも課題です。データの1件1件に、こうしたイベント処理をしていく仕組みを自社のオンプレミス環境で構築するのは大変です。

 こういった課題を、クラウドサービスで解決できると判断しました。E社が設計したAIとIoTのシステムの概要と、インフラデザインのポイントが図1です。

図1●AIとIoTの概要とインフラデザインのポイント
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注1)
AI関連のクラウドサービスで簡略化されるのは、インフラ構築・管理とテスト、デプロイという範囲が中心。学習方法の選択や特徴点の抽出といった、最もノウハウが必要な作業を自動化するものではない。現在のAI関連サービスは、AIに取り組むコストを下げて期間を短縮できる可能性のあるものと捉えるのがよく、AIを活用するシステムを構築できる専門家や、そのソリューションを適用するビジネス領域のプロは必要である。

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