オムロンは、廃棄ロス低減や熟練技術者の不足といった生産現場の課題に対応すべく、AI・IoT技術を搭載した制御機器やロボットの開発を積極的に進めている。将来的には、センシングにより4M〔人(Man)、設備(Machine)、材料(Material)、工法(Method)〕の変動をとらえ、AIがそれを学習して自律的に生産設備を制御して、不良発生や設備停止のない「ラインイベントゼロ」生産の実現を目指している。

 その代表格となる製品が、2018年10月に発売したPLC(Programmable Logic Controller)にAI機能を融合させた「AI搭載マシンオートメーションコントローラ」(以下、AIコントローラ)だ(図1*1。機械学習機能を搭載したエッジコンピュータで、センサーや機器からのデータに基づいて、学習済みAIモデルが瞬時に異常・正常を判断したり、その結果を制御にフィードバックすしたりする。これにより品質や生産性を高める。

図1 「AI搭載コントローラ」
PLCに機械学習のAIエンジンを搭載した。ハードウエアは既存のコントローラと変わらず、1つのCPUで制御動作とAIエンジンの両方を処理する。PLCの制御周期125μ秒と同期してAIによる判断・制御が可能。写真は後述の巻き線機の技術検証に用いているもの。(写真:日経ものづくり)
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*1 機械学習アルゴリズム「Isolation Forest」をベースにしたAIエンジンを搭載している。価格はオープン。

 同コントローラは、「機械学習エンジンが最大16次元の多次元の特徴量について、“いつもと違う(外れ値)”をリアルタイムに判別できる」(同社インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 技術開発本部技術専門職の仲島 晶氏)。周期的に変化するトルクや電圧などの計測値の波形から特徴量を抽出し、そこから異常度を算出する。加えて、「制御周期で処理できるのが強み」(仲島氏)。125μ秒のPLCの制御周期ごとにデータの取得とAIによる判定を実行できる。

 AIコントローラ専用のライブラリとして、異常度(外れ値)を判定する「予知保全ライブラリ」も提供している。設備の故障予知での利用を想定し、生産設備でよく使われる「ボールねじ」「シリンダー」「コンベヤー(ベルト・プーリ)」について、外れ値検出の機能をPLCのファンクションブロックとして提供する。「目で見て分からない程度の動きの遅れを検出できる」(同氏)という(別掲記事参照)。

組み込み向けの機械学習AIを搭載

 さらに、組み込み型のAIを開発するエイシング(本社東京)と提携し、同コントローラの設備制御向けの機能の強化にも挑んでいる。

 エイシングは、少ない学習数でも高い予測精度と高速処理が可能な独自のAIアルゴリズム「ディープバイナリーツリー(DBT)」に強みを持つ。DBTは学習モデル(予測モデル)を二分木(バイナリー・ツリー)*2構造で保持する同社独自の機械学習アルゴリズムで、学習が進むと二分木が成長し深くなる。深層学習のように大量の学習データを与える必要がなく、少ないメモリーで軽量なデータを用いた学習に向く。オムロンはエイシングと共同で、AIコントローラ用にDBTをベースにしたAIエンジンを新たに開発。高いリアルタイム性が要求される制御機器への適用を進めようとしている。

*2 バイナリー・ツリー 木構造で、ノード(分岐点)で2つに分かれるデータ構造。

 現在、オムロンの京阪奈イノベーションセンタは、巻き線機への適用を題材に、DBTエンジン搭載の同コントローラを使ったAIによるリアルタイム制御の技術検証を進めている(図2)。巻き線機は、2次電池のセパレーターなどに使う樹脂フィルムなどの箔材を、元の荷姿(原反)から巻き取りながら裁断したり、電極を塗工したりするのに使う設備。近年、自動車の電動化などでセパレーターの需要が拡大しており、それに伴って巻き線機の需要も増えている。

図2 技術検証に用いている小型の巻き線機
巻き線機の実機は全長数mと大きい。装置内を走っている白い箔がセパレーター用の樹脂。材料のつなぎ目や巻き取りの開始・停止時などに発生するフィルムの蛇行をAI制御で従来の1/10に抑えた。(写真:日経ものづくり)
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 巻き線機の課題の1つに材料の蛇行がある。新たな原反材料を追加する際、前の材料との境目をテープでつなぐが、そのつなぎ目や原反の個体差の影響によって材料がロール上を蛇行する(図3)。巻き取りの開始時や停止時など加減速する場合にも蛇行が発生しやすい。

図3 蛇行の様子
材料の左側端の位置(赤色の線)は、正常時に比べて、大きく右にずれている。(写真:オムロン)
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 そのため、巻き線機には材料の位置を検出し、フィードバック制御して蛇行を補正する蛇行制御機構が組み込まれている。蛇行部は不良区間として廃棄しなくてはならないからだ。「セパレーターフィルムは高価なため、少しでも蛇行を改善したいとの要望は強い」(仲島氏)。

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