宇宙ビジネスに大きな変革が訪れている。「宇宙輸送システムの再利用」と「打ち上げロケットの小型化」だ(図1)。

図1 技術の進歩で宇宙ビジネスが活性化
蓄積された宇宙技術にデジタル・エレクトロニクスの進歩が加わって、打ち上げロケットの小型化や再利用などによる宇宙輸送システムの低コスト化が進み、宇宙ビジネスの活性化につながっている。(資料:松浦晋也)
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 いずれも宇宙ビジネスの低コスト化を進め、民間企業の参入を促している。例えば、日本の宇宙ベンチャー企業「インターステラテクノロジズ」(IST)が2019年5月4日、小型衛星用ロケットの打ち上げに成功したのは記憶に新しい。

 ロケット打ち上げのコスト低減は、人工衛星打ち上げの低コスト化に直結する(挑戦者「早く安く地球丸ごと、超小型で新産業拓く」参照)。人口衛星を活用した宇宙ビジネスへの民間企業の大規模かつ多様なビジネス形態での参入を阻んできたのは、「巨額の打ち上げコスト」という参入障壁だ。

 ロケット打ち上げの低コスト化が進めば、この障壁が低くなる。従来なかった新ビジネスに取り組む企業も増え、その動きがさらに人工衛星の、そして衛星を打ち上げるロケットのニーズを高める「正のスパイラル」が生じ得る。世界中で宇宙ビジネスに参入する企業が増えているのには、こうした背景がある。

始まったロケット第1段の再利用

 従前のロケットは、すべて「使い捨て」だった*1。1回の運用で使い捨てるのではなく何回も回収し、再利用する宇宙システムの“夢"に最初に挑んだのが、1960年代後半から米国で検討が始まったスペースシャトルだった*2図2)。

*1 地球を周回する衛星を打ち上げるには、約10km/秒の速度が必要だ。そこまで加速するには、ロケット自体を極限まで軽量化し、使い終わった部分を打ち上げの途中で段階的に分離するしかない。これが多段式ロケットの設計コンセプトだ。その結果、製造コストがそのまま1回の運行コストに上乗せされる。
*2 当初、スペースシャトルの基本的な考え方は「2段式の飛行機」だった。まず、高性能が得られる液体水素・液体酸素という組み合わせの液体推進剤を使用する。これによって2段で10km/秒の速度を出せるようにする。さらに高性能推進剤の使用によって生じる重量的な余裕を使い、第1段と第2段の両方に翼を装着。利用後はそれぞれ翼を使い、グライダーのように滑空して空港の滑走路に着陸する。
図2 スペースシャトルSTS-135の打ち上げ
宇宙輸送システムのコストダウンには失敗したスペースシャトル。2011年7月8日に打ち上げられた、最後のシャトルSTS-135。(出所:NASA)
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 残念ながらスペースシャトルは、低コスト宇宙輸送システムという目標を達成できなかった。当初1回の運行コストは30億円。最盛期の1990年代は1回約500億円となり、最高で1600億円にも達した。事故も多発し、「低コストの回収・再利用」の夢はかなわなかった。

 しかし、長年培われてきた宇宙技術とデジタル・エレクトロニクスの急速な進歩が、この夢を現実にしつつある。 

 例えば、「ロケットエンジンの逆噴射による着陸」だ(図3)。「スペースX」の俗称で知られる米国の「スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(Space Exploration Technologies)」は2015年12月22日に打ち上げた「ファルコン9」の20号機で、使用後の第1段を射点近くの陸上着陸場に軟着陸させることに成功した。

図3 ファルコン・ヘビーの打ち上げ
スペースX社の大型ロケット「ファルコン・ヘビー」の打ち上げでは、分離されたブースター2本がほぼ同時に、射点近くの着陸場に逆噴射で着陸して回収される。(出所:SpaceX)
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 米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)のジェフ・ベゾスCEOが2000年に設立した「ブルーオリジン(Blue Orgin)」も、ロケット部が逆噴射で着陸、再利用される有人宇宙システム「ニューシェパード」を開発。2015年11月23日の打ち上げで、カプセル型宇宙船とロケットの両方の回収に初めて成功している。

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