■ 企業概要
明興双葉
設立1954年
従業員数400人(海外現法含む)
事業内容電気導体の製造販売、電線の加工、ワイヤーハーネスの製造販売
資本金5000万円

日本のものづくりを下支えしているのは、優れた技術を持つ中小企業と言われる。知名度こそないものの、隠れた実力を持つものづくり企業の生産現場を訪れ、その強さの秘密の一端を探ろうという趣旨の本コラム。第1回は、電線・ハーネス事業を手掛ける山梨県にある明興双葉(本社東京)の工場へと足を運んだ。

 「『たかが電線』と思うかもしれません。しかし、生活に不可欠な、人間に例えると血管や神経と言っても過言ではない貴重なアイテムです」─。電線やハーネスの製造を手掛ける明興双葉(本社東京)田富工場(山梨県中央市)工場長で、同社常務執行役員の向井博史氏は、自社の製品についてこう語る。

 創業64年目を迎えた同社は、IoT(Internet of Things)向けに需要が急速に伸びている電気配線やリード線向けの銅線を造っている(図1)。過酷な曲げやねじり、引っ張りなどに耐える高い品質がセールスポイントだ。

図1 明興双葉の田富工場(山梨県中央市)
明興双葉は日本国内で、山梨と岩手、茨城の3カ所に工場を持つ。(出所:ローランド・ベルガー)
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 それを支えているのは、直径2.6mmの銅線を、伸ばしに伸ばして同50μm(1/52)まで細くする技術。しかも、細線化した銅線の長さは165万m(1650km)にもなる。断線なしで途方もない長さの細線化を成し遂げ、さらにそれを繊維のように撚(よ)ったり編んだりして製品に仕上げる。その高い技術力こそが同社の強みだ。

アナログ感満載の細線化工程

 細線、撚り線、編み線の全ての製造を手掛けるのは業界でも明興双葉だけ。IoTや電気自動車(EV)といった産業とともに、通電・送電に必要な電線やシールドの需要は拡大すると予想される。そのため同社は、さらなる進化とそのための人づくり、イノベーション創出に意欲的に取り組んでいる。

 筆者らがきれいに整理整頓された工場に入ってまず感じたのは、人が少ないこと。段取り替え作業の他はほぼ自動化されている。最初の工程は、材料として仕入れてきた直径2.6mmの銅線を伸ばして同0.9mmまで細くするもので、機械(細線機)に入れた銅線が、ダイス(銅線を精密に細く伸ばすための穴の開いた治具)を通って行ったり来たりしながら、その度に細くなっていく(図2、3)。

図2 銅線の原料となる直径2.6mmの銅素材
直径2.6mmの銅素材を伸ばして直径数十μmまで細くする。(出所:ローランド・ベルガー)
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図3 30年以上使っている細線機
下段の段ロールの間にある10個ほどのダイスを通り抜けると、銅線の直径は0.08mmまで細くなる。(出所:ローランド・ベルガー)
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 銅線の送り速度は段階的に制御している。「ダイスの穴の大きさ」と「通す銅線の太さ」の組み合わせ、および「油の量」や「線を引っ張る力」のバランスがポイントという。職人とも言うべき作業者の熟練の技が感じられる工程だ。一旦動かし出せば材料が無くなるまで止まらないよう、作業者は経験に基づいて綿密に機械を調整している。この事前調整は極めて難度が高い。新人だとダイスに銅線を1回通すだけでも非常に時間がかかるという。

 最後に、ダイスを通って伸ばす際、銅線内部に加わった残留応力を取り除くために、アニールを施している。同社の技術を育んできた電線事業本部技術部部長の山本優氏によると、同社の技術を用いれば直径10μmまで細く伸ばせるという。しかも、現在同工場ではさらなる銅線の細線化や細線化速度の向上といった新たな技術開発に挑戦している。30年選手の伸銅機4台を最新鋭の小さな機械1台に集約・更新する改革も進行中だ。山本氏は、匠の技を機械化するという難度の高い課題を楽しんでいるようにみえた。

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