MEMS(微小電子機械システム)はスマートフォンの基幹部品にも使われ、自動運転実現の鍵も握る重要部品だ。MEMSによって何を実現できるのか。今後の日本の製造業にどのような影響を与えるのか。「日経 xTECHラーニング」で「車載センサー・IoTデバイスに革新をもたらすMEMS技術」の講師を務める田中秀治氏に聞いた。(聞き手は高市清治)

MEMS(微小電子機械システム)とは何ですか。

田中秀治 氏
東北大学 大学院工学研究科 ロボティクス専攻 教授

田中氏:簡単に言うと「半導体技術を使った、機械的に動く要素を含む部品」です。物理的な実世界と、コンピューターの中のサイバーな世界とを結ぶ役割を果たします。MEMSを搭載している製品はスマートフォンや自動車、ロボットなど多岐にわたります。

具体的にはどのようなものでしょうか。

田中氏:分かりやすいのは、携帯電話などに使われている加速度センサーでしょうか。LINEの「ふるふる」機能は知っていますか?スマホを近づけて小刻みに振るだけで、お互いのユーザーアカウントを交換できる機能です。スマホという現実の「もの」が振られていると伝えるMEMS加速度センサーがあるから、それをトリガーにスマホ間でユーザーアカウントという「データ」をやり取りする「ふるふる」機能を利用できるわけです。

 加速度センサー以外にも、スマホや携帯電話はMEMSをたくさん使っています。例えばマイク。スマホは、MEMSマイクを3、4個搭載しています。

 これらのMEMSマイクは、通話する人の声を拾う以外に、周辺や機器内部の雑音を拾うためにも使います。ノイズキャンセリングして通話音質を上げるのです。ヘッドフォンでは、MEMSマイクで検知した雑音成分から逆位相の波形の音波を生成して、内蔵した小型スピーカーなどから発して雑音を打ち消す使い方もしています。MEMSマイクも、「物理的な実世界と、コンピューターの中のサイバーな世界とを結ぶ」部品と言えるでしょう。

自動運転にもMEMSは必須

スマホ以外では何に使われていますか。

田中氏:MEMSが広く使われているのは、何と言っても自動車です。そもそも最初に普及したMEMSセンサーは、自動車のエアバッグに用いられた加速度センサーです。クルマが何かに衝突した衝撃を、加速度センサーが読み取ってエアバッグを膨らませています。

 MEMSジャイロスコープも多数、使われています。車体がどちらの方向を向いているのかを把握するために、角速度(回転速度)を測定します。これも多くがMEMSセンサーです。

 例えば、車がカーブを曲がる時に姿勢が乱れるのを抑える車体安定システムもMEMSジャイロスコープを使います。

自動運転でも重要ですね。

田中氏:その通りです。自動運転は、実世界を常にセンシングしていないと機能しません。特に自動運転用3次元レーザーレーダーの「LiDAR」(Light Detection and Ranging)は、自動運転技術には欠かせないセンサーになっています。レーザー光のパルスを物体に照射し、その反射光を測定して、物体までの距離を計測する技術です。光が照射されてから、対象物体で反射して受信されるまでの「Time of Flight」(光の往復飛行時間)を用いて距離を算出します。

 しかし、現在、用いられているLiDARの多くは機械式で高価なため、自動運転の実験車に使えても市販車には使えません。そこでMEMSの1つである、微小ミラーを動かして光線を制御する「マイクロミラーデバイス」をレーザー走査に使うLiDARが開発されています。対向車の運転手や歩行者の顔だけ照射しないといった配光制御ができる「スキャニング・レーザーヘッドライト」にも、マイクロミラーデバイスは使われようとしています。

 マイクロミラーデバイスでレーザーを走査するのは、レーザーディスプレイと同じ原理です。これとイメージセンサーを組み合わせれば、人の顔を認識すると、その人の顔の部分だけを照射しないといった制御ができます。つまり、常時ハイビームで遠方を照射して走っても、対向車のドライバーや歩行者はまぶしく感じないのです。ドライバーはハイビームで良好な視界と安全性を確保できます。

 この他にもロボットやAIスピーカー、ドローン、スマートグラスなどもMEMSを搭載しています。搭載していない製品を探す方が難しいくらいではないでしょうか。

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