ものづくりに関わる技術者に必要な材料の知識として、前回(2019年7月号)まで「機械的性質」と「物理的性質」について解説してきました。今回は、化学反応による変化のしやすさである「化学的性質」について解説します。

 世の中にあるほぼ全ての材料は、他の材料(気体、液体、固体)に触れたり、光エネルギーや電気エネルギーの影響を受けたりすると、化学反応を起こします(図1)。化学反応としては酸化や窒化、溶解などさまざまな種類がありますが、今回はものづくりにとって最も身近な金属の酸化(さび)を取り上げます。

図1 材料の化学的性質
ある材料が他の物質と接触したり、光エネルギーや電圧などが加わったりすると化学反応して異なる材料へと変化する。代表例が鉄からさび(酸化鉄)への変化であり、さびにくさ(耐食性)が化学的性質の1つとなる。
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酸素と水分が金属をさびさせる

 金属材料にとって最も一般的な化学的性質は、腐食への抵抗力である「耐食性」といっていいでしょう。金属が腐食すると、穴が開いて密閉性が損なわれたり、ボロボロになって強度が著しく低下したりしてしまいます。程度の差こそあれ、耐食性には必ず配慮する必要があります。

 金などの貴金属は単体でも安定しており、耐食性に優れています。一方、鉄は単体では安定していません(耐食性が低い)。そのため、酸素や硫黄、塩素などと結合し、酸化物や硫化物、塩化物などの化合物になって安定します。

* 純度が99.999%を超すような超高純度鉄は、ほとんどさびないことで知られている。

 特に、鉄の酸化物であるさびは日常的に目にします。街中の看板や放置自転車がさびているのをよく見るでしょう。実は、鉄がさびるのは自然な現象であり、本来の姿になっているともいえます。一般に、工業用材料として提供される鉄は化学的に不安定な状態なので、酸素を取り込んで酸化物として安定しようとするのです。

 実際、鉄の原材料である鉄鉱石は安定した酸化鉄として自然界に存在しています。この鉄鉱石から無理やり酸素を取り除き、鉄鋼材料として利用できるようにするのが「製鉄」です(図2)。酸化していない鉄は不安定なので、その不安定な状況から脱するために再び酸素を取り込んで元に戻ろう(酸化しよう)とします。その過程で発生するのがさびです。

図2 製鉄プロセスのイメージ
自然界に存在する鉄鉱石(酸化鉄)から酸素を取り除いて銑鉄を造り出すのが製鉄。ただし、銑鉄は不安定な状態のため酸化されやすい。(出所:西村 仁)
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 さびは鉄だけでなく、さまざまな金属で発生します。ここで必要となるのが酸素と水です。つまり、金属と酸素、水の反応でさびが発生するのです。具体的には、さびが発生するメカニズムは以下のようなステップとなります(図3)。

図3 さびが発生するメカニズム
金属(鉄)の表面に水が付着すると、空気中から酸素が吸収され、鉄からは鉄イオンが溶けだす。この酸素と鉄イオンが結合して酸化鉄、つまりさびが発生する。
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  • 金属の表面に付着した水分に、空気中の酸素が吸収される。
  • 酸素を含んだ水分に金属のイオン(例えば鉄イオン)が溶け出す。
  • 水分に溶け出した金属のイオンが酸素と水と結合してさび(例えば酸化鉄)が発生する。

 このメカニズムから分かる通り、水分(湿気)が多いほどさびが発生しやすくなります。乾燥した砂漠より、湿気が多い水辺の方が金属はさびやすいのです。

 ここでクイズです。水中に金属棒を途中まで差し込んだ状態をイメージしてください。金属棒の水面境界付近と、水中の最も深い部分とではどちらがさびやすいでしょうか。

 答えは「水面境界付近」です。水だけでなく酸素も同時に存在する環境だからです(図4)。

図4 水中に差し込んだ金属棒のさびやすい部分
水中に金属棒を差し込んだ状態では、酸素も水もある水面境界付近がさびやすい。
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