技術者だけでなく、製造部門の担当者や間接部門の資材購買、品質管理、生産管理の担当者も把握しておかなければならない共通の基礎知識があります。例えば、「材料」や「加工」、「図面」に関する知識は、ものづくりに関わる担当者が仕事をする上で欠かしてはならない基礎中の基礎です。

 「そんなこと分かっている」と誰もが思うでしょう。ところが案外、こうした基礎をしっかり把握していない場合が少なくありません。新入社員ならまだしも、最前線で働いている中堅社員でも、分かったつもりになっていて具体的に説明を求められると言葉に詰まることがよくあります。

 「仕事さえできればしっかり理解していなくても構わない」という認識の低さも原因の1つですが、それだけではありません。技術の進歩や新製品投入のサイクルが速すぎて、知識の吸収に追いつけないという、やむを得ない状況があるのもまた事実です。

 だからといってそんな「しっかり理解していない状況」を放置していてよいわけがありません。正確かつ深い知識は設計や加工、検査のレベルを高め、ひいては製品の質を向上させるからです。

 しかし、基本的な知識ほど「知らない」とはなかなか言えないもの。経験があればあるほど「これって何だっけ」「ここはどうするの」と人には聞けないものです。

 本連載ではそんな「今さら聞けない」ものづくりの基礎について解説します。まずは「材料の基礎」から始めましょう。

機械的性質の3つの現象

 材料は製品そのものに使うのはもちろん、製品を造り出す生産設備や治工具にも使用します。材料はとにかく種類が多い。しかし、1つの製品や生産設備で使用する材料の種類は、せいぜい5~10種類程度です。そのため、材料を選択するときにその都度ゼロから悩むのではなく、事前に「この場合にはこの材料を使う」と大まかなメドを決めておくのがお勧めです。材料を選択するときには必要な「性質」を見定めて、次に「コスト」と「納期」を含めて総合的に判断します。

 では、性質の見方を紹介しましょう。材料の性質には、例えば以下のようなものがあります。

  • [1]頑丈なのか、脆弱なのか=剛性や強度
  • [2]硬いか、軟らかいか=硬度
  • [3]重いか、軽いか=密度
  • [4]電気を通すのか=導電性
  • [5]熱が伝わりやすいか=熱伝導性
  • [6]磁石に付くのか=磁性
  • [7]さびにくいか=耐食性

 こうした性質が分かれば、製品や生産設備にはどの材料が適するか、どのように加工すべきか、といったことが分かります。これら以外にも多くの性質があるため、「機械的性質」と「物理的性質」、「化学的性質」の3つに分けると理解しやすくなります(図1)。

図1 材料の性質
材料の性質は、外部からの力に対する「動的な性質」と外部からの力と無関係な「静的な性質」に大別できる。動的な性質は「機械的性質」とも呼ばれる。静的な性質はさらに「物理的性質」と「化学的性質」に分けられる。(出所:西村 仁)
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 「機械的性質」とは、外部からの力に対する性質です。力を加えたときの変形の度合いや破壊しにくさなどを表します。「物理的性質」は重さや電気、熱、磁性などに対する性質です。「化学的性質」は、さびなどの化学反応に対する性質です。すなわち機械的性質は材料に加わる力に関する「動的な性質」で、物理的性質と化学的性質は力とは関係のない「静的な性質」になります。

 この中の機械的性質について、材料に力を加えるとどのような変化が起こるのかを、誰でもイメージしやすい「ばね」を例に説明します。ばねの片方を手でつまんで引っ張ると伸び、手を離すと元に戻ります。より大きな力を加えるとばねは伸び切ってしまい、元に戻らなくなります。さらに力を増すと、ばねは引きちぎれます(図2)。ばねに限らず、丸棒でも角材でも材料に力を加えると、ばねと同じように伸びたり引きちぎれたりする現象が起こります。

図2 弾性変形と塑性変形、破断の違い
ばねの片方を手でつまんで引っ張り(力を加え)、手を離す(力を除く)と元に戻る。これが「弾性変形」。さらに力を加えて伸び切り、力を除いても元に戻らなくなるのが「塑性変形」。さらに力を加えて、引きちぎれるのが「破断」。(出所:西村 仁)
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 力を加えた瞬間から伸び出して、力を除けば元に戻る。これを「弾性変形」と言います。さらに力を加えると、伸び切って、力を除いても元に戻らなくなる。これを「塑性(そせい)変形」と言います。さらに力を増すと、材料は引きちぎれます。これを「破断」と言います。つまり、材料に力を加えていくと「弾性変形」→「塑性変形」→「破断」の順に変化します。

 これら3つの現象は、私たちの身近にある製品でうまく活用されています。弾性変形を利用した代表例に文房具のクリップがあります。クリップを少し広げて紙をはさみ込みます。これは、クリップに使われているアルミニウム(Al)合金などの「元に戻ろう」とする「弾性変形」を生かした一例です。

 塑性変形を活かした事例としては、薄板を金型ではさみこんで凹凸形状を付けるプレス加工が挙げられます。大衆食堂のテーブルの上に置かれている灰皿は丸いアルミ合金板をプレスして凹凸を付けて造ります。大きな力を加えて「塑性変形」させたわけです。

 旋盤やフライス盤、ボール盤などの工作機械で加工を行う際には、材料に工具を接触させて材料表面を削ります。大きな力で限界を超えた変形を材料に与えて引きちぎる「破断」です。

 これら3つの現象の境界を示すのが「降伏点(もしくは耐力)」と「引っ張り強さ」です(図3)。「力がかかって伸び切り、元に戻らなくなる」という、弾性変形の上限となる力の大きさを表したのが「降伏点」。「力がかかって引きちぎれる」という、その材料が破断する力の大きさを意味するのが「引っ張り強さ」です。降伏点と引っ張り強さは、材料の特性表には必ず記載されています。

図3 降伏点と引っ張り強さ
「力がかかって伸び切り、元に戻らなくなる」力の大きさを表したのが「降伏点」。「力がかかって引きちぎれる」力の大きさを意味するのが「引っ張り強さ」。(出所:西村 仁)
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