日本人設計者が中国メーカーと一緒にものづくりをすると、なぜか不良品発生などのトラブルが起こってしまうことがあります。しかしその本当の原因は中国に無理解な日本人設計者にあるのかもしれません。駐在の4年半を含めた7年間、中国でのものづくりに関わった私が、失敗経験を紹介しつつ、その理由を分かりやすく解き明かすこの連載。今回は前回に引き続き、中国の「ヒト」に関する出来事、つまり「中国人の仕事の仕方」に関する失敗談をお伝えします。

プロジェクターの送風ノズルに溶接の不具合

 日本の製造業では商社を間に挟んだ仕事がとても多くなります。信頼できる商社にお願いすれば仕事は問題なく進んでいくからです。では日本の設計者が日本の商社に依頼して中国で部品を作製する場合でも、問題ないと安心しきって大丈夫でしょうか。

 これは私が中国赴任当初に経験した実際の話です。前回もチラッと書いた通り、当時私はプロジェクターの担当でした。そのプロジェクターは光源にランプを使っており、それがとても高温になります(図1)。そこでファンからの送風で冷却して温度を約1000℃近くに維持しながら点灯させています。こうした過酷な条件なので、ランプの寿命と輝度を維持するには、ランプメーカーの指定する温度を保つ必要があります。

図1 高温になるプロジェクターのランプ
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 ランプの中心には直径10mm弱のガラス球があり、そこが高温になります。そのガラス球の適切な箇所に送風する必要があり、そのために板厚0.3mmの板金で出来た小さな送風ノズルがランプの内部に取り付けられています。上の写真では、板金のネットの内側の位置となります。その送風ノズルはやや複雑な形状をしていて、2枚の板金がスポット溶接で接合されていました。

市場で溶接剥離のトラブルが発生

 量産中のある日、このスポット溶接されている部品が剥離するという問題が発生しました。製品が発火するような問題には発展しませんが、ランプを適切な温度に維持できなくなり、とても早くランプの寿命が来てしまうことになります。

 この2枚の板金をスポット溶接した送風ノズルは、信頼できる日系の商社に製造を依頼していたものでした。板厚0.3mmの板金の加工は、板厚が薄くて一般のプレスメーカーでは加工できなかったため、日系の商社に依頼してメーカーを探してもらいました。

 日系商社の1人の担当者に私は全ての情報を出し、その商社が探したプレスメーカーの名前を聞いたり、その工場を訪問したりすることもせず、送風ノズルの作製を進めていました。実は日本で商社に部品の作製を依頼した場合は、この方式でも問題はまず起こりません。日本の商社が部品の作製を依頼している日本の部品メーカーはとても優秀で、あうんの呼吸で仕事をしてくれるからです。

 私はこのとき、日本の習慣通り商社の担当者に全てを任せ、それ以外の人には何もコンタクトを取らないで部品作製を進めてしまうミスを犯してしまったのです。中国に赴任したばかりの頃、日本にいる感覚で仕事をしていた私は、その担当者に私の要望を確実に伝えてさえいれば、他に何もすることはないと思っていました。ところが中国ではもちろんそううまくはいきません。

人手不足で溶接作業を別の会社に再委託

 溶接剥離の原因の調査が始まりました。その日系商社は、板厚0.3mmの板金をプレス成形とスポット溶接する技術を持つA社を探し出し、製造を依頼していました。ところが量産が始まり生産台数が増えてくると、このA社だけでは溶接作業の人手が足りなくなってしまったのです。どうしたか? 生産ロットの一部について、スポット溶接の作業を全く別の会社であるB社に委託していたのです(図2)。

図2 板金部品の製造委託の関係
A社が、人手不足になった溶接作業を別会社(B社)に委託していた。
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 調査が進むと、スポット溶接の剥離はB社に委託した部品のみで発生していると分かってきました。実はA社が溶接作業を再委託する際に、溶接条件と溶接方法を確実にB社に伝えていなかったのです。結局、B社のスポット溶接の品質がA社と違ってしまっていました。

 驚いたことに、A社がB社にスポット溶接を再委託している事実を、少なくとも問題が発生した当初は日系商社も知りませんでした。つまりA社は自社だけの判断で、スポット溶接作業の一部をB社に委託していたのです。

 そこで、次のような対策を実施しました。まず、スポット溶接をA社に戻します。その上で、溶接強度を測定してから出荷するようにしました。また、再発防止策として4M変更管理を徹底することにしたのです。

 今回、A社が自社の判断でB社にスポット溶接を委託したということは、4M変更のうち「Man」「Machine」「Method」の変更に該当します。「溶接する人」「溶接する機械」「溶接する方法」を変更したのに発注元である商社の担当者には連絡していませんでした。これは絶対にあってはならないことです。

 実はスポット溶接をA社に戻し、溶接強度の測定、4M変更の再度徹底という対策以外にも、溶接治具の作製という対策も行いました(図3)。実はA社においてもB社においても、溶接が手作業だったのです。この手作業であったことが、溶接条件と溶接方法が確実に伝わらなかった原因でもあったのです。そのため治具の作製は中国ではとても重要になります。この内容は今回のテーマとは異なるため、この後のコラムの「モノ」に関するテーマで解説したいと思います。

図3 新規に追加した溶接作業用の治具
手作業だった溶接作業に治具を導入し、品質向上を図った。
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