「若手社員はそれぞれ得手不得手や作業効率のばらつきなどがある。スマートグラスや人工知能(AI)を活用して技能継承ができれば、若手社員の実力を底上げできるのではないかと考えた」

図1 スマートフォンで金型の仕上げの良否を判定
中山鉄工所では、金型の仕上げの状態をスマートフォンで撮影し、その良否を人工知能(AI)で判定するシステムを試験的に採用。スマートフォンで撮影した金型の画像で、「NG」の部分は赤色に、「OK」の部分は青色で表示される。
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 こう話すのは中山鉄工所(本社岡山県倉敷市)の中山光治社長だ。同氏は、新しいデジタル技術を使った熟練技能者の技能を継承する取り組み(図1)に、大きな期待を掛けている。

 同社は、主に自動車部品の金型の設計から製造までを手掛ける。最近は医療機器や航空機部品の金型にも挑戦。ステンレス鋼やチタン合金、インコネルなどの難削材の加工にも取り組んでいる。

 そんな同社にとって、作業者の技能の底上げは急務だった。地方の中小企業はただでさえ人材確保が難しい。そこへ昨今の景気回復に伴う大手企業の採用拡大が追い打ちをかけ、若手社員の採用がますます難しくなっている*1。やっと採用できた「金の卵」である若手社員には、できるだけ早く、確実に技能を身に付け、高齢化する熟練技能者の後釜に座ってもらいたい。そうしなければ生産効率が上がらず、経営が立ちゆかなくなる。

*1 一般に大企業が採用を控える時期は、逆に中小企業が採用を増やし、人材を確保しやすい。

AIの良否判定を若手育成に生かす

 そこで迅速に後継者育成を進める対策として、2017年9月からシーイーシー(CEC、本社東京)の協力を得て、デジタル技術を活用した技能継承のシステムを利用し始めた*2

*2 中小企業庁が主幹となって実施している通称「ものづくり補助金」を利用して導入した。2019年度の「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」は、IoTやAI、ロボットを導入する中小企業に対する補助制度で、同様の趣旨の補助金を用意する地方自治体もある。例えば、中小企業庁の制度では、中小企業が、革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行う場合に、必要な設備投資などに対して経費の一部(補助率1/2ないしは2/3。上限は原則1000万円)を支援する。こうした制度を使うと、デジタル技術の導入負担を減らせそうだ。

 例えば、AIを活用した金型の仕上げの良否判定もその1つ(図1)。ここではCECの画像検査システム「WiseImaging」を試験的に採用した。AIが深層学習し、スマートフォンで撮影した画像から仕上げが「OK」の領域と「NG」の領域を即座に判定。スマートフォンの画面上で色分けして表示するシステムだ。現在は、「OK」画像と「NG」画像のサンプルをCECに提供。CECがAIをチューニングしている段階だ。

図2 スマートグラスを装着して作業する熟練技能者
スマートグラスのカメラで撮影した映像を、オフィス内のパソコン画面上に表示して、若手作業者が学習できるシステムも採用した。
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 金型の仕上げは、メーカーや金型の種類によって許容される誤差が5μmだったり10μmだったりと異なり、仕上げの磨きの良否判定は非常に難しい。まして初心者は、自分が磨いて仕上げた金型を見ても、OKなのかNGなのか判断するのも心もとない。しかし、OK/NGが明確になれば、自ら行った作業のプロセスを自己評価できる。正しいプロセスを繰り返せば技能の習得につながる。良否の判断ができなければ、自らの作業の良し悪しも判別できない。

 以前なら「職人の背中を見て盗む」のが常道だった。しかし現在は、限られた人材で生産性を高めなければならない。「見て盗む」余裕はないのだ。ましてや、熟練技能者が直接、手取り足取り指導する時間などない。しかし、もしも初心者でも簡単に良否判定できる仕組みがあれば、そこに至るプロセスが「正しかった」「悪かった」と自ら理解し、学習する手掛かりになる─。中山氏はこう考えた。

 この他、動画で学習するシステムも導入している。熟練技能者が装着したスマートグラスで、作業中の視界を撮影。Bluetoothを介してパソコンに送った映像を見て、初心者が熟練技能者のノウハウを習得するシステムだ(図2)。

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