品質不具合を減らし、世界の競合に打ち勝つためには、生産プロセスだけでなく、開発設計プロセスも体系化すべきだ──。ワールドテック代表取締役で元デンソー開発設計者の寺倉修氏はこう説く。「技術者塾」において「世界No.1製品に必要な先行開発段階の設計力」の講座を持つ同氏に、開発設計プロセスの重要性について聞いた。(聞き手は近岡 裕=日経 xTECH、高市清治)

デンソーが電子ミラー用の電子制御ユニット(ECU)を、開発開始から約1年半で量産にこぎつけたと報道されています。新製品の開発設計としては異例の早さだと考えてよいのでしょうか。

寺倉氏:驚異的に早い。というのも電子ミラーはベースとなる製品がない、革新的な新製品だからです。通常なら図面を出すまでに2年、生産準備に1年、トータルで3年程度は要するのではないでしょうか。

 まず整理しておきたいのですが、一口に「新製品」といっても色々あります。圧倒的に多いのは、ベースとなる製品の機能や性能をアレンジした「類似製品」です。スターターやエンジンなどは、新製品が出たとしても既存の製品をベースにしていますから類似製品。新製品のうち9割以上が類似製品と考えていいでしょう。新規性の度合いに応じて「次期型新製品」や「次世代型新製品」などもありますが、電子ミラーやETC(電子料金収受システム)のようにベースとなる製品がない、新規性が非常に高いものは「革新的新製品」と言えます。

 最近はシミュレーション技術が進んで開発速度が高まっています。しかし、それにしても量産化まで約1年半とは驚きですね。

開発設計期間を短縮できる、優れた開発設計プロセスを採用したのでしょうか。

寺倉氏:残念ながら「優れた開発設計プロセス」といった便利なものはありません。多少はアレンジできるとしても基本は同じ。取るべきプロセスを愚直にたどるしかないのです。

 開発設計プロセスとは、顧客のニーズを把握してから、生産技術や生産部門、外注企業などに図面を渡すまでのプロセスを指します。一般には前半の「先行開発プロセス」と後半の「量産設計プロセス」に分けられます。先行開発プロセスは、顧客のニーズに応えるための技術的な課題を乗り越えるプロセスです。量産設計プロセスは、品質不具合が出ないようにする詳細設計となります。

 最近は、大手か準大手の企業なら量産設計プロセスを体系化しているようです。しかし、先行開発のフローを体系化して、明文化している企業はほとんどないと思います。実は先行開発プロセスこそが、その製品の性能とコストを決め、競争力を左右します。にもかかわらず日本の製造業界ではこのプロセスを軽んじているのが実情です。この意識を変えないと、激化する一方の他国製品との競争に打ち勝てないと私は考えています。

先行開発の内容と流れを教えてください。

寺倉氏:先行開発の流れを簡単にまとめると、まずコンセプト(商品仕様)を決めて、そのコンセプトを実現するための課題をリストアップします。それから、その企業が持つ技術によってリストアップした課題を乗り越え、量産設計につなげます。

 少し具体的に話しましょう。コンセプトを決めるためには顧客のニーズを把握しなければいけません。これは決して簡単ではない。というのも、打ち合わせで顧客の話に耳を傾ければいいというわけではないからです。顧客が要望を伝える言葉は非常にアバウトです。漠然としたイメージに近い。イメージでは設計できません。造る側はそのイメージを、製品を造るための仕様に置き換えなくてはなりません。この製品仕様をコンセプトと考えてもらって構いません。通常はクオリティーとコスト、デリバリーの3つに落とし込んで行きます。

 特に重要なのはクオリティーです。クオリティーを「品質」と訳すと「品質保証」の世界の「品質」と誤解されがちですが、そうではありません。先行開発におけるクオリティーとは「機能」と「性能」、そして「信頼性」を指します。

 機能は、その製品に持たせる役割です。私はデンソーの電子ミラーの開発設計に関わってはいませんから、あくまで例えばの話ですが、電子ミラーであれば「どのようにして後方の映像を撮影するか」「どの範囲を映すか」「運転手に見やすくするためにどのような角度にするか」といったことを検討し、決めていく。これらが機能です。

 性能は各機能に対する目標値です。例えば、「画面をどの程度明るくするか」「どの程度の分解能にするか」「どの程度の視野角にするか」。ここが製品の競争力を決める要です。

 そして信頼性。どのような環境で、どれだけの期間にわたって目標値を保てるか。時間軸が関係してくる点において、その時点で故障状態にあるか否かを判断する品質とは異なります。

 これらのコンセプト(製品仕様)を決めたら、コンセプトを実現するための技術課題をリストアップします。新規性の高い製品を設計する場合、その企業、あるいはその職場が持っている基盤技術だけでは課題を打破できないはずです。プラスアルファの技術が必要になる。一般的には最新技術ですね。コンピューター解析を駆使するなどして、その「基盤技術プラスアルファ」を見つけ出す。この「基盤技術プラスアルファ」を「ネック技術」と呼んでいます。

 ネック技術が見つかれば、開発設計の峠を越えたと言えます。製品から品質不具合を出さないようにする量産設計に移行できます。

この先は有料会員の登録が必要です。「日経ものづくり」定期購読者もログインしてお読みいただけます。今なら有料会員(月額プラン)が4月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら