品質問題の解決はまず「議論」から

どうしてそのような問題が発生するのでしょうか。

皆川氏:多くの日本企業にとって最大の問題は、「品質を総括している人」の不在です。野球で言えば、監督がいないチームのようなもの。個々の選手が勝手に投げて、打って、走り、チームワークは機能しない。こんなチームが試合に勝てるでしょうか。優秀な監督はチーム戦略や戦術を提示し、そこにプレーヤーを配置して試合をコントロールします。その先に勝利があるのです。ものづくりでは、品質を総括する人(例えば、設計者)が必要です。その人が個々の品質手法を有機的に連携させて、高品質というアウトプットを勝ち取るのです。

日本企業が最低限、実施した方がよいというアドバイスがあれば教えてください。

皆川氏:ぜひ、管理職や作業者などみんなで議論してください。品質不具合を防ぐには、品質不具合につながり得る原因や現象に気付かなければなりません。「三人寄らば文殊の知恵」ということわざがある通り、品質に関わる人が集まって議論すれば、品質不具合につながる要素に気付く確率が高まります。

 「デザインレビュー(DR)」を日本語に訳すと「設計審査」ですが、この訳語が良くない。これでは設計に対する一方的な審査と受け取られ、みんなで議論するというイメージにつながりません。設計を審査するイベントは、移行可否判定会議(QA)の方です。

 しかしながら、DRとQAを併せて実施する企業が実際に多いのです。審査だけを行い、みんなで議論はしないため、不具合につながり得る原因や現象になかなか気付かない。結果、品質問題の再発を許してしまう…。

 議論と審査は分けるべきです。その意味で、私はDRではなく「DD」と呼ぶことを推奨しています。「設計議論(デザインディスカッション)」です。設計審査という訳語では、ものづくりにおける「心」が抜けています。「議論し、気付きを得て、万全の品質対策を講じる」がDR(DD)の本質ですから。

 私の講演ではよく、グループ演習で受講者に議論してもらいます。皆が「議論の大切さ」に気付くのです。受講者は、ものづくりの現場を担う設計、生産技術、製造、品質保証、検査の5部門(5者)がDRでいかに議論することが大切かを、肌身にしみて理解できるはずです。

 私は「3み」が大切とも言っています。「見(み)える化」し、「みんなで議論して」、「未(み)然防止」しましょうと。見える化の準備ができて初めて議論ができ、未然防止を実現できるのです。

 体系的に品質手法を学びなさい、みんなで議論しなさいと言うと、「面倒くさい」という言葉が返ってくることがあります。恐らく、これが多くの人の「本音」でしょう。では、最後にこう言っておきましょう。

 品質の良い企業になるか、それとも悪い企業になるかは、体系的に品質手法の習得や関係者が集まっての議論などに、愚直に取り組めるか否かで決まります。直近でも、品質問題を起こして破綻した大きなメーカーがあるではありませんか。会社が無くなってから、未然防止の大切さを知ったのでは遅すぎる。愚直に取り組まずに手を抜いて、明日、あなたの会社はありますか─と。

皆川一二 (みながわ・かずじ)
元トヨタグループSQC アドバイザ、元デンソー、ワールドテック講師、小松開発工業顧問
みながわ・かずじ:1966年に日本電装(現デンソー)入社。トヨタ2000GTをはじめ、多くの燃料噴射装置や電子制御式燃料噴射装置(EFI)の開発設計に従事。EFI用コンポーネント、インジェクタ、エアフローメーター、燃料ポンプなどの開発設計も担当。車載システムと製品の開発設計で豊富な経験がある。2003年、デンソーテクノ電子制御式ガソリン噴射製品設計部長。その後、デンソーテクノ品質管理部で品質教育企画および社内品質教育講師、トヨタグループ の「SQCアドバイザ」を歴任。ワールドテックでの品質教育講師として、現在に至る。
出典:日経ものづくり、2018年10月号 pp.143-146 技術者塾 INTERVIEW「品質問題の背景に『総括者』の不在が」
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