電波望遠鏡「アルマ(ALMA=Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)」は66台のアンテナで構成された世界最大の干渉計である。この観測装置を機能させる重要部品はもちろんアンテナだけでない。サブミリ波という極めて波長が短く微弱な電波を受信する受信機にも、想像を絶するものづくりの努力が費やされていた。

 本題に入る前に2018年2月4日、国立天文台が都内で開いた「アルマ望遠鏡講演会」のときの話をしたい(図1)。私も登壇者の1人として参加したこの会は、およそ400人が来場する盛況だった。会場には子供の姿が目立ち、30分間の質疑応答の最後に挙手したのもある小学生の男の子だった。

図1 アルマ望遠鏡講演会の様子
2018年2月4日に東京国際交流館(東京・江東)の国際交流会議場で開催した。 (写真:山根一眞)
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「アルマのアンテナはもっと数を増やさないんですか?」

 これに対する長谷川哲夫さん(自然科学研究機構国立天文台 チリ観測所、上席教授)の回答が秀逸だった。

「たくさんケーキがあって、もっとケーキを増やす方がいいのか、それともまったく別のもの、たとえばジュースをいくつか作るのがいいのか、そういう検討が必要です」

 アンテナを増設すればアルマ望遠鏡の観測能力がさらに向上するのは間違いないが、そのためには相当な資金が必要になる。それだけの資金を投じるのであれば、別のプロジェクトに同額を投じる方が、天文学の研究全体にとってはよいかもしれない。それぞれのケースで期待される「成果」との兼ね合いを勘案した上で増設が良いか否かが決まる、という考え方を説明したのだ。この回答に、質問した小学生は納得した表情を見せた。

 講演会に来ていた小学生の女の子は「将来、望遠鏡を作る人になりたい」という希望を語っていた。小学生の進路に対しても“アルマ効果"があるんだと感銘した。

 私は2017年から核物理学の基礎研究や原子力発電所の廃炉技術の取材も進めているが、その取材で訪ねたある中小企業─「ものづくり」で驚くべき技術を持っている─の担当部長もこの講演会に参加してくれたそうだ。その彼は拙著『スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち』を読んで来場、講演後にこう話していたそうだ。

「アルマの製造に取り組んだ『ものづくり』の各社の努力や挑戦を知ると、我々もさらに努力をしなくては、という気持ちになった」

 アルマのものづくりを知ることは、天文学分野を超えて多くのものづくりに携わる方々に勇気や奮起をもたらしていると改めて知り、とてもうれしかった。

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