東京工業大学教授の小酒英範氏と慶応義塾大学教授の飯田訓正氏、同准教授の横森剛氏らの研究グループは、自動車エンジン内の水噴射技術で性能向上につながる新しい現象を発見した。水蒸気の膜と呼べる層を気筒内につくることで、遮熱効果を得られる。水蒸気膜により高温の燃焼ガスからピストン上面に熱が伝わる損失を抑えられ、エンジンの熱効率を高める効果が期待できる(図1)。

図1 水を噴射して水蒸気膜の層をつくる様子
(1)燃料を噴射して希薄混合気を作った後、(2)ピストンが上死点に達する前に水噴射する、(3)点火前にピストン上面との間に水蒸気膜が形成される。東工大と慶大が提供した動画からキャプチャーした。(出所:東工大と慶大)
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 気筒内水噴射自体は既に知られている技術だが、水で気筒内を冷やして空気を多く入れる「出力向上技術」(国内自動車メーカー幹部)と見られており、採用は広がっていない。大手メーカーの量産車では独BMWが高級スポーツ車の一部で採用するのにとどまる(図2)。

図2 水噴射技術を採用するBMWの高性能スポーツ車「M4 GTS」
出力向上技術として水噴射を採用する。直列6気筒ターボガソリンエンジンに採用し、燃費性能を維持しつつ出力とトルクを大幅に高めた。(出所:BMW)
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 世界で厳しい環境規制が広がる中、各社が優先するのはCO2排出量の削減技術である。出力重視の技術は後回しにされがちだった。水噴射で遮熱する新現象によって熱効率向上に寄与するとなれば、出力と環境の両立技術として採用が広がる可能性がある。

 研究グループは今回発見した水噴射による遮熱効果を「成層水蒸気遮熱燃焼(Stratified Water Insulated Combustion Architecture:SWICA)」と命名。「現象を可視化したところ、気筒内で水蒸気の成層化が生じている可能性がある。今後、実験でも確かめる」(小酒氏)。

 2019年3月に終了した国家プロジェクト「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)革新的燃焼技術」の一環で得られた成果である。SIPでは、ガソリンエンジンの熱効率として研究段階で世界最高となる50%超に達したと報告している。SWICAは「50%達成の中核技術の1つ」(飯田氏)である。SIPの成果発表時点では同技術の特許を出願しておらず、今回の内容をほとんど公表していなかった。このほど、日経 xTECHに技術の一部を明かした。

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