藤村俊夫氏
愛知工業大学工学部客員教授(工学博士)、 元トヨタ自動車、PwC Japan自動車セクター顧問をはじめ数社の顧問を兼任。(写真:都築雅人)

 トヨタ自動車(以下、トヨタ)が、「EVの普及を目指して」と題した電動化戦略を2019年6月に発表した。「電動車を世界で550万台以上販売し、そのうち電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)を100万台以上とする」という目標達成の時期を、2030年から2025年に早めた。なぜ5年前倒ししたのか。トヨタの電動化戦略をどう見るか。愛知工業大学工学部客員教授で元トヨタ自動車のエンジン技術者である藤村俊夫氏(左)に読み解いていただいた。(聞き手は近岡 裕=日経 xTECH)

トヨタがEVを含む電動化計画を発表した。EVに本腰を入れるようだが、どう見るか。

藤村氏:率直に言えば、EVは「見せ球」だろう。発表には「EV」を冠しているが、トヨタがEVにそれほど力を入れているとは思えない。

 トヨタは世間から「トヨタはEVで遅れている」と思われている。同社は反論してきたが、「そうは言っても、いまだにEVを市場投入していない」と言われる。また、トヨタは中国市場で2019年中にプラグインハイブリッド車(PHEV)を、2020年にはEVを発売する計画を発表済み(図1)。「EVもきちんと開発している」という姿勢をトヨタは見せたいはずだ。

図1 トヨタが2020年に中国市場で発売予定のEV
左が「C-HR」ベースのEVで、右が「IZOA」ベースのEV。(出所:トヨタ自動車)

「e-TNGA」を導入する本当の理由

とはいえ、トヨタは2020年以降に世界で10車種以上のEVを展開すると宣言し、EV版モジュラーデザイン「e-TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」を開発に導入することも明らかにした(図2)。

図2 e-TNGAの構想
中型SUVと大型SUVのEVでできる限り共通の部品を使い、変動部分で車種を造り分ける。これにより、中型SUVのEVで懸念される採算割れのリスクを緩和する。(出所:トヨタ自動車)
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藤村氏:e-TNGAを導入する理由は、リスク回避のためだ。中型車と大型車でそれぞれ専用のプラットフォームを造ると、どちらかが売れなかったときに損失が大きくなる可能性がある。共通部をある程度使える設計であれば、どちらか片方が売れればダメージを抑えられる。

 中国市場ではSUV(多目的スポーツ車)の人気が高いから大型SUVのEVならある程度ニーズがあるだろう。トヨタとしても採算が取れる。上級車は高価でも買ってくれる富裕層の顧客がいる。これは米テスラ(Tesla)の成功を見ても明らかだ。ところが、中型SUVのEVはそうはいかない。価格を抑えなければ恐らく売れないが、それでは採算が取れない。

 顧客が中型が欲しいと望めば造れる形を、部品を共通化しながら造っておく。これがe-TNGAの構想で、できる限り同じ部品を使いつつ、変動部分の違いで中型SUVと大型SUVの両EVを造り分けてコストを抑える。これにより、中型SUVのEVが売れない場合でも損失を最小限に抑えるという狙いだ。

 中型SUVや大型SUVの「現実解」は本来、HEVやPHEVである。それが分かった上で、「これだけ世間で『EVだ、EVだ』と騒がれているのだから、欲しいと思う顧客もいるかもしれない」という期待感や、「EVにも積極的な姿勢を見せておかなければならない」という考えから、リスクを回避しつつ大型SUVと中型SUVの両EVを開発できるe-TNGAをトヨタは構想し、今回明らかにしたのだろう。

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