宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)は、現在小惑星「リュウグウ」の観測を続けている小惑星探査機「はやぶさ2」で、2019年4月5日に人工クレーター生成実験を実施する(図1)。同探査機搭載の装置「SCI」(Small Carry-on Impactor)を使い、質量約2kgの銅の衝突体をリュウグウ表面に打ち込み、直径数十cm~10m程度の人工クレーターを生成し、その様子を観察する。その後、生成したクレーター付近の状況が許せば、クレーター内部、あるいはその周辺部から、露出した小惑星内部サンプルの採取を試みる。

図1 2019年3月18日の記者会見の様子
模型を使いクレーター生成実験の手順を説明する久保田孝ISAS教授(右)と、佐伯孝尚助教(左)。(写真:松浦晋也)
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 衝突体を打ち込むのは、同年2月22日にタッチダウンとサンプル採取に成功した場所(通称「タマテバコ」地点)の東側、リュウグウ赤道近くの「S01」という場所。S01は大小の岩塊に覆われたリュウグウ表面の中で、比較的平たんで小石や砂に覆われた場所が多い。なるべく大きなクレーターを生成でき、また実験後に同定しやすいという基準で選定された。

 小惑星のような太陽系小天体への人工物の衝突実験は、米航空宇宙局(NASA)が彗星(すいせい)探査機「ディープインパクト」で、2005年7月4日にテンペル第1彗星の核に質量370kgの衝突体を打ち込む実験を実施して以来、世界で2例目となる*1。ディープインパクトは、テンペル第1彗星とランデブーせず、横を通過するタイミングで衝突体を打ち込み、発生した噴出物と生成クレーターの観測を行った。小天体にランデブーしての衝突実験ははやぶさ2が世界初。クレーターからの噴出物のサンプルを採取できれば、これも世界初となる。

*1 ディープインパクトは2005年1月に打ち上げられた。

衝突の状況を分離カメラで観測

 SCIは、直径300mmの円筒形をした装置で、はやぶさ2の底面に搭載されている。質量14kgで、内部に円すい形状の爆薬4.5kgを搭載する。円すいの底面部は、質量2.5kgの銅製のライナーで覆われている(図2*2

図2 衝突装置(SCI)の概要
直径300mm、質量14kgの円筒形の装置。内部に円すい形状の爆薬4.5kgを搭載する。円すいの底面部は、質量2.5kgの銅製のライナーで覆われている。(出所:JAXA)
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*2 爆薬に点火するとライナーが加速しつつ弾丸形状に変形してリュウグウ表面に衝突する。対戦車兵器などに使われる自己鍛造弾という技術の応用。

 衝突実験はリュウグウへの降下から始まる。

 通常、はやぶさ2は、高度20kmのホームポジションという位置からリュウグウを観測している。実験では、まず高度500mまでリュウグウに降下してSCIを分離。続いて、衝突部位からみてリュウグウの反対側となる位置への退避を開始する。これはリュウグウ自体を衝突実験時の噴出物からの遮蔽体として使うためである。

 退避の途中、衝突予定位置から1kmほど離れた場所で、はやぶさ2は、衝突の瞬間を観測するためのカメラ「DCAM3」を分離する。

 DCAM3は、直径80×全長78mmの円筒形状で、リアルタイム性に優れるアナログカメラと、高精細の理学観測が可能なデジタルカメラを搭載する(図3)。内蔵バッテリーにより最長で3時間程度の動作が可能。アナログカメラはNTSC規格のアナログテレビ相当の画像を送信し続けて衝突の動画像を撮影し、デジタルカメラは2000×2000画素のモノクロ画像で衝突時の噴出を約1mの分解能で観測する。

図3 DCAM3とその台座となる分離機構
DCAM3はアナログとデジタルの2つのカメラを搭載する。(出所:JAXA)
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 SCIはタイマーにより分離から40分後に爆発し、衝突体をリュウグウ表面に打ち込む。衝突の瞬間をとらえたDCAM3のデータは、はやぶさ2本体を経由して地球に送信する。

 衝突後、高速の噴出物はリュウグウから飛び去り、低速のものはリュウグウの小さな重力に引かれて落下する。また、小さな浮遊物は太陽光の圧力によりリュウグウから遠ざかっていく。これらが落ちついて周囲の安全が確保できるまで、衝突後2週間程度かかるとJAXAは想定している。安全が確保されてから、はやぶさ2はホームポジションに復帰する(図4)。

図4 クレーター生成実験の手順
SCI分離後、はやぶさ2は、リュウグウに対して側方に移動し、クレーター生成を観察できる場所でDCAM3を分離。リュウグウの陰に隠れる。(出所:JAXA)
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