子供用の運動靴「瞬足」などで知られるアキレス。実はシューズ事業の売り上げは全体の15%程度しかなく、その実態は素材メーカーだ。売上高の半分を樹脂フィルムなどのプラスチック事業が占め、残りを断熱材などの産業用資材事業が稼ぐ。2012年から社長を務める伊藤氏は、「素材の力で社会課題の解決に貢献したい」と、マーケットイン型の事業創出に力を注ぐ。(聞き手は吉田 勝)

写真:栗原克己

 この数年はクリーンなものづくりを実現する素材に力を入れています。代表的なのが半導体製造工程用のフィルム。クリーンルームで使われるフィルムや搬送用ケースなどです。

 さらに、その技術を生かして医療用の素材製造も始めています。これからの成長を大きく期待している事業です。半導体製造工程で使うフィルムは押し出し成形で造っています。細菌などをきちんと管理する体制で造れば、同じ装置で医療向けの材料も造れるのです。具体的な用途などはまだ言えないのですが、2019年から量産を始める予定です。こうした新しい用途開拓をどんどん拡大させています。

技術内覧会で気付きを促す

 私が2012年に社長就任して最初に力を入れたのが、新領域の開拓や拡大に向けた取り組みです。その1つに、2013年から1年半に1度のペースで開催を続けている技術内覧会「Achilles THE NEXT」があります。「THE」のTはテクノロジー、Hはヒューマン、Eはエンバイロメントの意を込めています。

 きっかけは東日本大震災です。当時、被災者のためにマットレスを5000枚寄付してほしいと福島県から当社に名指しで依頼がありました。あまり知られていませんが、当社はウレタンマットレスを造ってベッドメーカーなどに供給しています。国内シェア4割ほどのトップメーカーなんですよ。

 私は東北の出身ですし、当時は営業担当の専務だったので、なんとかしたいといろんな手配をしてその依頼に応えました。そのとき、「我々は人のために何かをしなくてはならない」との意を強くしました。社会的課題を解決するために何ができるかを探り、アキレスはどこに向かってるのかを示すために、Achilles THE NEXTを始めたのです。

 従来技術に新技術を組み合わせれば、様々な社会課題を解決できると思っています。2018年には、ビルやマンションの高層階の建設現場に設置する簡易休憩所の開発に協力しました*1。これは我々の製品であるゴムボートやエアーテントの技術を応用しています。

*1 アキレスは、空気を使って膨らませるエアーテントを製造・販売しており、自衛隊や官公庁に多数納入している。

 優れた技術を持ってると自負しています。しかし、技術だけあっても市場に出なければ意味がありません。Achilles THE NEXTでは、技術を市場にうまく合わせて提供する場であると同時に、内部の意識を変えるチャンスです。社内や社員同士の気付きを促す狙いがあります。直近の回では、社員が書いたアイデアをボードに貼って、それを見た来場者にそこからインスパイアされた欲しい製品や技術のメモを残してもらう取り組みをしました。

 社員の気づきを促し、新分野を切り開くもう1つの取り組みは、2013年に新設した「開発営業部」です。最先端の新しいテーマを発掘し、技術の種をある程度育てた上で事業部に引き渡すのがミッションです。事業部横断的に優秀な人材を集めました。直近の大きなテーマにはインフラの老朽化対策があります。老朽化した橋りょうにフィルムを貼り、コンクリートの剥落を防ぐ手法を検討しています。

素材の力をもっと生かしたい

 展示会だけで顧客に深く入り込めるとは思っていません。様々な企業との連携が必要です。自前主義ではなくて、他に強みを持つ企業と組んでいく体制を構築しないと市場や顧客に深く入り込めません。そこで大事なのは私も含めたトップセールスですね。決断も早いし、どんどん進められる。ニーズをくみ取るためにも各事業部門のトップが率先垂範して顧客のところに出向く必要があります。

 その他、究極のトップダウンとしては、私の考えたイノベーションのアイデアを具現化するためのチームが社長室の中にあります。それが社長室のメインタスクと言ってもいいくらいです。社員にやれやれいうだけではなくて、模範を示す意味もあります。

 今やっているのは断熱材と農業の組み合わせです。例えば、さくらんぼの収穫時期を調整するために、樹の上の雨よけのビニールシートの上にドローンで遮熱材料を吹き付けて温度が上がり過ぎるのを防ぐとか。熱だけをカットして光は透過させる必要があるので簡単ではないのです。昨年はそうしたテストもやりました。後は、断熱材を使って雪を貯蔵する技術も検討しています。

 ボトムアップ型の新規テーマの技術開発も進めています。提案をしても何も始まらないようでは、若い人たちが意欲を無くしてしまいますから。具体的には、全社共通のテーマとして年に2回のテーマ検討会を実施しています。若手研究者が自分のやりたいテーマを発表して、私や研究開発担当役員が採用を判断します。採択したテーマはあくまでサブテーマで、正式に会社に報告をしなくていいことになっています。報告書の作成に時間や労力をとられないようにするためです。予算配分も現場の裁量に任せています。研究開発に属している管理職以外の40人ほどのメンバーが1テーマを提案し、そのうち1割くらいが採用になります。ボトムアップで現場がやりたいようにできる道を作っておくと、新たな挑戦が生まれて社内を生き生きとさせられるはずです。

アキレスが生産する遮熱面材付きのウレタンフォーム断熱材。住宅建材などとして使われている。 (出所:アキレス)
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いち早く目を付けた導電性ポリマー

 新分野への挑戦や開拓の原体験とも言えるのが、静電気除去用素材の導電性ポリマー事業です。

 私はもともと大学で電気化学を専攻していて、光学異性体を選択的に生成するといった研究をしていました。教授に紹介されて入ったのが、当社の前身の興国化学工業です。何をしている会社かはよく知らず、化学だからいいだろうと、安易な気持ちで入りました。

 新人は全員1年間の営業を経験するのですが、私は5年半も営業部門にいました。馬が合っていたんでしょう。しかしそのうち、営業マンがいなくても売れる商品を作るのが1番手っ取り早いと思うようになりました。当時の副社長に研究開発への異動を直訴し、足利工場にあった産業資材を扱う第3研究開発部に配属となりました。当時、既にシューズ、プラスチック、産業資材の各事業の売上高はそれぞれ1/3ずつくらいでした。

 特定の研究テーマがあって異動したわけではなかったので、上司と話し合って何か新しいことをやろうとなりました。新しいことに挑戦できる環境だったのです。そうして取り組んだ新事業が、静電気除去用の素材開発でした。いろいろ探して、1984年から導電性ポリマー(導電性高分子)の研究を始めました。導電性ポリマーは、軽くて電気を通す材料として1980年代後半には学会などでも関心が高まりましたが、我々はいち早く目を付けていたのです*2

*2 2000年に、白川英樹氏が導電性高分子材料の発見と発展に寄与したとしてノーベル化学賞を受賞している。

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