GaN/SiCパワー半導体を応用したインバーターなどの研究を進めている名古屋大学 教授の山本真義氏(未来材料・システム研究所)が、米Teslaの新型EV「Model 3」など市販車に搭載のパワーエレクトロニクスモジュールを分解した。同社の設計思想を解読すべく、挑戦的な回路技術を詳説する。GaNパワー半導体で期待される応用にも触れる。(日経エレクトロニクス)

 2010年時点で多くのコンサルタント会社は、2030年までの次世代自動車の主流がまずはハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)、続いてプラグインハイブリッド車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)になると予測していた。ところが、その予測は外れ、現在の主役は電気自動車(EV:Electric Vehicle)になりつつある注1)

注1)これまでは、HEVの市場が立ち上がった後、2030年以降にPHEVの市場が主流となり、最終的に充電器インフラが整備された後、EV市場が立ち上がると考えられていた。そして内燃式機構であるエンジン(ディーセルエンジンを含む)は残り、並列した市場として確保されると、ある程度希望的に予測する関係者が国内に多かった印象が筆者にはある。

テスラの新EVは「アクア」より売れた

 直近のHEV、PHEV、EVの販売台数を見ると、確かにHEVでは日本勢が一人勝ちだ(図1)。ただし国内メーカーの多くが2030年ころから立ち上がると見ていたPHEVでは、既に中国BYDにトップの座を奪われている(図2)。4位と5位も同社が占めており、近いうちに上位の日本勢を逆転するかもしれない。さらに6位の車種がドイツBMWの「530e/540e」であり、欧州勢が強い比較的ハイエンド車がPHEV市場をけん引していく可能性も見て取れる。EVに至っては、米Tesla(テスラ)の新型EV「Model 3」が日産自動車の「リーフ」の2倍近い販売台数を達成している(図3)。この“黒船"の躍進は、国内メーカーには全くの誤算だった。「EVは充電インフラが整備されないと売れない」という“通説"が、Teslaのブランド力、さらにライフスタイルの変貌を読み取った同社の市場戦略で覆った。同社のブランドイメージは、今後の市場を握るミレニアル世代(1989~1995年生まれ、スマホやパソコンを子供時代から使いこなしている世代)に受け入れられており、今後も販売拡大が予想される。

図1 HEVでは日本メーカーが圧倒
HEVの世界市場における2018年の販売台数。(図:富士経済の『2019年度版 HEV、EV関連市場徹底分析調査』を基に筆者が作成)
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図2 PHEVでは海外メーカーが健闘
PHEVの世界市場における2018年の販売台数。(図:富士経済の『2019年度版 HEV、EV関連市場徹底分析調査』を基に筆者が作成)
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図3 EV市場でTeslaが躍進
EVの世界市場における2018年の販売台数。(図:富士経済の『2019年度版 HEV、EV関連市場徹底分析調査』を基に筆者が作成)
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 HEV、PHEV、EVの電動化車両の販売台数で比べると、Model 3が国内販売台数で上位のトヨタ自動車の「アクア」よりも世界市場では売れている(図4)。やはり国内で人気の日産自動車「ノートe-Power」のすぐ後ろに中国・北京汽車のEV「ECシリーズ」が着けている。

図4 Model 3がHEVに伍して電動化車両の主力に
電動化車両の世界市場における2018年の販売台数。(図:富士経済の『2019年度版 HEV、EV関連市場徹底分析調査』を基に筆者が作成)
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 自動車市場全体に占める電動化車両の販売台数は10%に満たないものの2035年に向けて40%に達するとの予測がある(図5)。急成長が見込める電動化車両の市場で主導権を確保することは重要だ。

図5 自動車の成長を支える電動化
世界市場での自動車の駆動方式別販売台数予測。(図:富士経済の『2019年度版 HEV、EV関連市場徹底分析調査』を基に筆者が作成)
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 しかも今後の電動化車両の主流は、国内の主力で今後も伸びると見られていたHEVではない。EVと、現在主力のHEV「ストロングHEV」とは別の「48VマイルドHEV」の2つだ注2)図6)。実は、EVと48VマイルドHEVに向くパワー半導体では欧州勢が先行しており、日本勢は相対的に不得意と言える。

注2)HEVは、搭載している2次電池の出力電圧が60V以上で「ストロングHEV」、60Vより下は「マイルドHEV」に分類される。マイルドHEVは、環境変化に伴う出力電圧の低下マージンを見込んで48Vでパワー半導体回路を駆動することから「48VマイルドHEV(48V-MHEV)」と呼ばれる。単にHEVと言えば、一般にはストロングHEVを指すことが多い。HEV推進の背景として、世界で最も厳しい欧州の二酸化炭素排出量規制を自動車メーカーが満たす必要があったことが挙げられる。特に車両重量が大きな車両を中心に販売する欧州自動車メーカーは、CAFE方式 (企業別平均燃費基準方式)に合わせ、それぞれのメーカーの特徴を生かして規制に対応している。2011年夏には、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン)、ドイツPorsche(ポルシェ)、ドイツAudi(アウディ)、ドイツDaimler(ダイムラー)、ドイツBMWの欧州5社が、業界標準規格「LV148」を策定し、48V化技術に対する研究開発の集中を図った。さらにドイツ自動車工業会(VDA)が品質管理規格「VDA320」を策定。国連欧州経済委員会(UNECE)は、UN規則「No.100」を採択しているすべての国で、2013年7月15日以降に新規認可を取得する車両および再充電可能エネルギー貯蔵システム(REESS)に「電気安全に関する要求事項(UN/ECE R100)」を義務付けた。この絶縁電圧対策が2次電池の出力電圧60Vより下のシステムでは不要で48VマイルドHEVとなった。60V以上では、出力電圧が120V以上の大容量電池を持つシステムが主流である。
図6 ストロングHEVより48VマイルドHEV
世界市場における電動化車両の方式別販売台数の予測。(図:富士経済の『2019年度版 HEV、EV関連市場徹底分析調査』を基に筆者が作成)
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■修正履歴
記事初出時、図1と図4の「C-HR」と「セレナ」のメーカー名に誤りがありました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。[2019/09/20 12:00]

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