材料技術×情報技術=「マテリアルズインフォマティクス(MI)」が世界を席巻している。材料開発のスピードを数倍から数十倍に高める可能性があり、すでに成果も続々と出てきているからだ。新材料の開発は日本が強い分野だが、MIで出遅れるとその優位性が一気に失われる。MIとは何か。何ができるのか。そしてMIに対する世界の動きを紹介する。

 「従来の材料開発で使っていたツールが自転車やクルマだとすれば、マテリアルズインフォマティクス(MI)に基づく開発は飛行機に乗るようなもの。速いだけでなく、これまで不可能だった遠くへ行ける。見られなかった景色が見られる。我々はこの1~2年の間にこうした体験を十分してきた」─。

 そう語るのは、物質・材料研究機構(NIMS) 統合型材料開発・情報基盤部門(MaDIS)副部門長の出村雅彦氏だ。同機構 情報統合型物質・材料研究拠点 拠点長の伊藤聡氏も、「情報技術のスピード感は、それまでの材料開発にはなかったもの。それに乗っていかなければ、今後の激しい開発競争を勝ち抜けない」と危機感を露わにする。

遺伝子解読の動きに触発

 MIは、実験や計算結果のデータ中のパラメーター間にある相関関係を機械学習などの人工知能(AI)技術で見つけ出し、それを基に最適なパラメーターの値やその材料を予測する、といった材料開発の手法である。

 その発端は、1990年代に進められた人間のDNAの塩基配列をすべて解読し、データベース化するプロジェクト「Human Genome Project(ヒトゲノム計画)」に当時、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で電池材料の開発をしていたGerbrand Ceder氏が触発されたことだった。Ceder氏は、材料の特性をデータベース化する「Materials Genome Project」を2005年にスタート(図1注1)。これが、2011年の米国オバマ政権による国家プロジェクト「Materials Genome Initiative(MGI)」の発表につながった。

図1 世界がMIの利用にまい進
世界各国・地域のマテリアルズインフォマティクス(MI)への主な取り組みや国家プロジェクトを示した。当初は米MITなどが始めたが、それをオバマ政権がMGI(Materials Genome Initiative)と呼ぶ国家プロジェクトにしたことで、他国・地域にもMIの波が波及した。
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注1)日本の材料研究者を驚かせたのは、2011年に東京工業大学とトヨタ自動車が開発したイオン伝導度が非常に高い固体電解質「Li10GeP2S12(LiGePS)」の改良版材料の組成を、Ceder氏の研究室が数カ月のうちに、データと計算だけで見つけ出して2012年に発表したことだ。
 この件は、特に特許戦略の点で大きな脅威になるという。「日本では材料の特許は、実際に合成してみせなければ取得できないが、米国では組成だけで取れる。ぼやぼやしていると、有望な材料を軒並み計算だけで発見され、特許で抑えられてしまう」(日本のある材料開発関係者)。

 2013年には米国で蓄電池の電解質にフォーカスした「Electrolyte(電解質) Genome Project」も開始。これらを追いかけるように、日本を含む世界でMGIと同様な方向性の国家プロジェクトが発足し始めた(図2)。

図2 材料分野ですみ分け
日本のMI関連の国家プロジェクトの概要と対象とする材料分野を示した。超超プロジェクトは有機機能性材料、MI2Iは無機機能性材料、SIP-MIは構造材料、とすみ分けている。
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