最終回では、赤外線カメラの主力の応用分野の1つである車載向けについて解説する。運転手の夜間の視界を補助するナイトビジョン(暗視装置)システムの搭載車種が徐々に広がっている。今後の自動運転用のセンサーとしても補助的に使われる可能性がある。この他、熱伝導率の違いを利用して、物体内部の様子を非破壊で確認する応用などにも触れる。 (本誌)

 赤外線イメージセンサーの応用範囲は非常に広い。第7回(2019年3月号)で紹介したスマートフォン以外に、(1)視覚補助、(2)セキュリティー、(3)救難援助、(4)工業計測、(5)設備保全、(6)消防、(7)建物診断、(8)医療、(9)リモートセンシングなどがある(図1)。ただし、これまで赤外線イメージセンサーを搭載したカメラの価格が高く、最大の市場である設備診断でも30万台程度にとどまっていた。ここへ来て赤外線カメラの低価格化が進んでおり、市場や応用範囲は広がると見ている。以下、これらの応用について説明する。

図1 赤外線カメラの応用分野
赤外線カメラの応用例を示した。(写真:筆者、リモートセンシングはJAXA、スマートフォンはFLIR Systems)
[画像のクリックで拡大表示]

視覚補助は主に車載、夜間事故を低減

 (1)視覚補助は、夜間に有効で特に自動車向けが多い。自動車向けは「ナイトビジョンシステム」と呼ばれる。距離画像を捉える車載センサーのLiDAR(Light Detection and Ranging)には難しいとされる歩行者や動物など発熱体の認識が夜間にできる。電波を使うミリ波レーダーの解像度は一般には低く、やはり光の領域の赤外線を使うカメラは有効だ。

 ナイトビジョンシステムは、車両の前部(例えばフロントグリル内)に取り付けて300mくらい前方の人や動物を見つけて運転手に注意喚起できる(図2)。ADAS(先進自動運転システム)や自動運転システムと組み合わせて、人や動物の存在を知らせたりできる。

図2 ナイトビジョンシステムの構成
ナイトビジョンシステムの構成例。赤外線カメラで捉えた画像をナビゲーション画面に表示する。300mほど先の歩行者を撮像できる。(図:筆者、カメラの写真はFLIR Systems)
[画像のクリックで拡大表示]

 筆者は、関東近郊で自動車に赤外線カメラを搭載して夜間に走行したことがある(図3)。カメラの解像度はVGA(640×480画素)、30フレーム/秒で運転中に撮像した。運転後に画面を確認すると、対向車両のヘッドライトがまぶしく、肉眼では人や自転車などを見にくい環境にあっても、遠方の人の存在を明確に確認できた。カメラは、ナイトビジョン向けではなく、汎用の遠赤外線カメラだったが、その威力を十分に発揮できることを実感した。

図3 赤外線カメラで運転中の車内から撮像
赤外線カメラで神奈川県藤沢市の夜道を走行した様子。対向車のヘッドライトがあっても歩行者がよく見える。(写真:筆者)

 日本の道路は明るいためにナイトビジョンシステムは不要だとの見方があるが、上記の経験を踏まえると、街灯が整備された市街地を含めて有効だ。採用したカメラはVGA品で可視光のカメラと比べて決して高解像度ではなかったが、その画像だけを見ていても運転できるのではないかと思えるほどだった。

 ナイトビジョンシステムで先行しているスウェーデンAutolivによるとドイツにおいては、夜間の運転時間は20%にすぎないが、歩行者を巻き込む事故の60%が夜間に発生しているという(図4)。米国では、自動車事故での死者が年間5000人ほどで、そのうち約70%が夜間に起こっている。夜間の安全性を高めて事故を減らすとの考え方には一理ある。

図4 歩行者事故に占める夜間事故の比率が高い
交通事故の原因と消費者が求める運転支援システムをまとめた。(図:Autolivの資料を基に筆者が作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 事故を減らすためには、人をできるだけ早く見つけることがカギになる。衝突時の速度を低くすればするほど、致命傷から重傷、さらに軽傷と、被害を軽減できるという統計データがある。走行中に歩行者を早く見つけて、まずは回避を目指し、万が一間に合わなくてもブレーキを早くかければ、不幸な事故を減らし、ケガを軽減できるということだ。

 ナイトビジョンシステムを使うと、ヘッドライトより随分先まで見える(図5)。システムによって見える距離は異なるが、ヘッドライトの3倍先というのが1つの目安である。ヘッドライトで見えるのが100mなら、300m先までとなる。

図5 ナイトビジョンシステムの撮像例
ナイトビジョンシステムで撮像するとヘッドライト(HL)よりも3倍遠方まで見える。対向車のHLの影響を低減し、霧など悪天候下でも視界を確保できる。右下の写真のみ可視光カメラで撮影した比較画像。(写真:筆者)
[画像のクリックで拡大表示]

 対向車のヘッドライトに幻惑されない利点もある。さらに、肉眼では全く見通せないような霧の状況でも人や車を認識できる。遠赤外線は、可視光よりも波長が長い分だけ散乱が少なく、透過する光線が多くなる。

 ナイトビジョンシステムの利点を踏まえると、普及のカギを握るのは価格といえるだろう。2022年には、現在の半額程度の200米ドルくらいまでには下がるとの調査結果がある。その時にはレンズのコスト比率が大きくなっているはずで、レンズ価格を引き下げる新技術が出てくれば、さらに価格を低減できる可能性がある。高級車だけではなく中級車にも普及する可能性が出てくる。

この先は有料会員の登録が必要です。「日経エレクトロニクス」定期購読者もログインしてお読みいただけます。今なら有料会員(月額プラン)が12月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら