産声を上げる無線の革命児─。本誌2002年3月11日号のLeading Trends(現在のEmerging Tech)で初めてUWB(Ultra Wideband)を解説したときのタイトルがこうでした。それからあまたの紆余曲折を経て、いま再びUWBが注目を集めています。米アップル(Apple)が2019年9月20日に発売した「iPhone 11」「iPhone 11 Pro」「iPhone 11 Pro MAX」の3機種すべてに、自社製の専用チップ「U1」を搭載したからです。

 無線通信に携わる皆様の中には、大きな驚きを持って迎えられたり、ともすれば懐古の念を禁じ得なかったりする方も少なくないと思います。かつては世界中の名だたる企業や大学、研究機関がエース級の人材をUWBに投入しました。一時は“究極の無線通信技術”とまでもてはやされたUWBですが、これまではその期待に応えられずにいました。

 ではなぜAppleは今になってUWBを担ぎ上げたのでしょうか。同社はまだ多くを語ってはいませんが、測距・測位のためのセンシング技術として位置付けているようです。実はこの使い方、UWBの原点だったりします。

 そもそもUWBは軍事用途に端を発する技術です。冒頭のUWB初解説記事に詳しいのですが、UWBを使って、森林やジャングルなどの陰に隠れている戦車や部隊などの攻撃目標を上空飛行する航空機から探査するレーダーシステムとして使うとあります。通常のレーダーでは確認できないような攻撃対象を、UWBの反射波を利用して浮かび上がらせるというものです。また、部隊の全員にUWBの送受信機を持たせて、仲間の位置を逐一把握するシステムとして使うともあります。米軍では作戦行動時に、仲間の誤射によって負傷する割合が非常に高いという事情があるからとしています。

 これを私たちの世界に当てはめれば、さしずめ都会というジャングルの中で、Appleは「AirDrop痴漢」や「リレーアタック」といったサイバー攻撃から身を守る手段を提供しようとしているのでしょうか。今後の展開に期待するところです。

出典:日経エレクトロニクス、2019年11月号 p.7
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