5G(第5世代移動通信システム)スマートフォンなどで使う無線通信規格の特許ライセンスを巡り、米クアルコム(Qualcomm)と米連邦取引委員会FTC(Federal Trade Commission)、同社と米アップル(Apple)との間でそれぞれ争っていた裁判が、いったん決着した。その経緯を紹介した前編に続き、公判から特許ライセンス交渉の舞台裏を明らかにする。Qualcommの強引な交渉は、Appleが米インテル(Intel)のモデム事業の買収を決めた引き金となったといえる。(本誌)

 米クアルコム(Qualcomm)がスマートフォンなどで長年続けている特許ライセンス慣行について、米連邦取引委員会FTC(Federal Trade Commission)法違反との判決が2019年5月に下った(図1)。この「サンノゼ裁判」の経緯については『日経エレクトロニクス』2019年8月号で紹介した。今回、その公判から明らかになった同社と米アップル(Apple)との交渉過程と取引契約条件、判決前後に米国トランプ政権の意向をくむ米国司法省DOJ(Department of Justice)反トラスト局が提出した意見書とその背景について解説する。

図1 「サンノゼ裁判」に敗れたQualcommの本社
判決でQualcommは、ライセンス契約の見直しを迫られている。(写真:同社)
[画像のクリックで拡大表示]

Appleとの取引の実態が明らかに

 サンノゼ裁判が始まった2017年1月までに両社間では大きく5つの業務契約が締結されていることが公判で明らかになった。

 2007年1月8日付け「マーケティング奨励契約(Marketing Incentive Agreement、日本語は筆者訳、以下同)」、2009年12月18日付け「戦略条件契約(Strategic Terms Agreement)」、2011年2月11日付け「移行契約(Transition Agreement)」、2013年2月28日付け「第1次修正移行契約(First Amended Transition Agreement)」そして同契約と同日付けの業務協力および特許契約である(判決理由書pp.82-105)。

 Appleは初代「iPhone」を2007年1月に発表し、同年6月に発売した。その2年ほど前の2005年にQualcommなど複数のモデムチップ・メーカーにコンタクトし始めた。Qualcommは、Apple購買部門からのサンプルや技術仕様の提供要求に対し、サンプル提供や何らかの業務上の取り決めの前に特許ライセンス契約の締結が先決であり、加えてApple特許をクロスライセンスする必要があるとの方針を示した。Appleとしてはクロスライセンスの意思はないことから、その時点でQualcommをチップ購入先候補から外した。

 2006年にAppleがモデムチップの見積りを取るために再度コンタクトしたときもQualcommは2005年のときと同様に「チップを買いたければ特許ライセンス契約を締結する必要がある」との方針を伝え、ライセンス契約のドラフトを提示した。

この先は有料会員の登録が必要です。「日経エレクトロニクス」定期購読者もログインしてお読みいただけます。有料会員(月額プラン)は初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら