5G(第5世代移動通信システム)開発をけん引している米クアルコム(Qualcomm)が長年続けている特許ライセンス方法を違法とする判決が下った。同社は控訴中だが確定すると、スマートフォンなど無線機器のライセンス料が大幅に下がる可能性がある。米中貿易摩擦を背景に米政権が特許権者の権利を強化しようとする動きが見られる中、裁判所は「法の正義」を貫いた。知財経営の専門家が2回にわたり解説する。 (本誌)

 移動通信業界では、他社と比べ極めて高いロイヤルティー料率を設定する米クアルコム(Qualcomm)の特許ライセンス慣行が、長年にわたり諦めに近い形で受け入れられている。この慣行に一石を投じる判決が、2019年5月、米国で下された。

 移動通信技術開発で業界をリードしているQualcomm(図1)は一方で、競争を阻害する事業戦略を続けてきた。モデムチップの供給と特許ライセンスを巧みに絡めて有利な取引条件で顧客である端末メーカーを囲い込むとともに、競合の半導体メーカーには特許ライセンスを与えない。この相互作用によって同社は市場の独占を形成、維持してきた。しかし今回の判決が確定すれば、不動の地位が崩れる可能性がある。

図1 FTCとの訴訟に敗れたQualcommの本社
判決でQualcommは長年のライセンス手法を禁じられた。(写真:同社)
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カリフォルニア州で2つの裁判

 今回の裁判は、米連邦取引委員会FTC(Federal Trade Commission)がQualcommを米国競争法(反トラスト法)違反でカリフォルニア州サンノゼの連邦地裁に2017年1月に訴えて始まった注1)。「サンノゼ裁判」と呼ぶ。判決は、同社による競争法違反を認定し、違反行為の差し止めとその是正を命じる内容だった。FTCの全面勝訴といえる。

注1) この裁判は、米カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所、FTC v. Qualcomm, Case No.17-cv-00220-LHK (N.D. Cal. 2017)。

 FTCは、提訴に至るまでに同社の商慣行の違法性について2014年9月から審査していた。その結果、同社の違法性が明らかになったとして提訴に踏み切った。陪審員を伴わない判事による公判(ベンチトライアル)は2019年1月に完了しており、いつ判決が出てもおかしくない状況にあった。

 サンノゼ裁判と並行して、カリフォルニア州のサンディエゴ連邦地裁では、米アップル(Apple)とその委託製造会社4社がQualcommを競争法違反とFRAND(Fair, Reasonable and Non-Discriminatory)誓約違反で訴えた裁判「サンディエゴ裁判」が進行していた注2)。こちらは、2019年4月15日から陪審による公判(ジュリートライアル)が始まり、翌16日には公判2日目にして和解が成立、結審した。

注2)標準仕様の実施に欠かせない特許を「標準必須特許(SEP)」と呼び、標準化団体では、同特許を持つメンバーが同特許を有償でライセンス許諾する場合に、「公正、合理的かつ非差別的な」FRAND条件でライセンスする誓約あるいは宣言を義務付けている。これをFRAND誓約(宣言)と呼ぶ。この裁判は、米カリフォルニア州南部地区連邦地方裁判所、IN RE: QUALCOMM LITIGATION, Case No.17-cv-00108-GPC-MDD (S.D. Cal. 2017)。

 一方のFTCによるサンノゼ裁判の公判においては、Appleやその委託製造会社など多くの端末メーカーが一様にQualcommの商慣行について証言していた。サンディエゴ裁判の公判においても同社のAppleなどに対する同様の行為が明らかになる可能性があったが実現しなかった。

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