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 CO2の排出量を大幅に削減できるとして、航空機分野で期待を集める電動化技術。日本では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が中核となって2018年7月に立ち上げた「航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアム」が精力的に活動している。「空飛ぶクルマ」と呼ばれるような小型機から200人以上が乗る大型機まで、航空機全般に求められる電動化技術の目標を設定し、その実現に向けた研究開発を行い、日本の航空産業拡大を目指している。JAXAの組織「航空技術部門次世代航空イノベーションハブ」が主体となり、自動車関連メーカーや電機メーカーといった、これまで航空機産業とは縁遠かった企業も巻き込みながら進めている。2018年12月には、コンソーシアムとして、航空機の電動化に関する「将来ビジョンver.1」を公開。電動化の開発目標や技術課題などをまとめた。そこでコンソーシアムを主導する立場にある「ステアリング会議」のメンバーに、コンソーシアムに参加した狙いを含め、今後の活動などについて、座談会形式で話を聞いた。回答したメンバーは、航空機電動化コンソーシアム 代表でJAXAの渡辺重哉氏と西沢啓氏、IHIの大依仁氏、日本航空機開発協会(JADC)注1)の戸井康弘氏、三菱電機の岩田明彦氏、SUBARUの村田巌氏である(以下、敬称略)。(聞き手:根津 禎、構成:赤坂 麻実=ライター)

座談会の参加メンバー。左から、SUBARUの村田巌氏、IHIの大依仁氏、JAXAの渡辺重哉氏、JAXAの西沢啓氏、JADCの戸井康弘氏、三菱電機の岩田明彦氏(写真:赤坂 麻実)
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座談会参加者の氏名と所属(座談会開催の2018年12月時点、敬称略)
氏名所属・肩書
渡辺 重哉JAXA 航空技術部門 次世代航空イノベーションハブ長
西沢 啓JAXA 航空技術部門 次世代航空イノベーションハブ エミッションフリー航空機技術チーム長
大依 仁IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 技術開発センター エンジン技術部 将来技術プロジェクトグループ 担当部長
戸井 康弘日本航空機開発協会(JADC) 常務理事
岩田 明彦三菱電機 先端技術総合研究所 パワーエレクトロニクス技術部門 主管技師長
村田 巌SUBARU 航空宇宙カンパニー 技術開発センター 担当部長(技術戦略) 兼 システム設計部長

注1)JADCは、旅客機の開発に向けて、国内の機体メーカー5社(三菱重工業、川崎重工業、SUBARU、新明和工業、日本飛行機)が集まって立ち上がった団体である。

航空機電動化コンソーシアムの発足から約半年が経過した。これまでの活動から、得られた知見や発見などについて教えてほしい。

SUBARUの村田氏:航空機業界やエレクトロニクス業界といったさまざまな立場の企業が参画しているとはいえ、ECLAIRでの技術に関する議論はプリミティブ(根源的)なものなので、業界は違えども悩みは同じである。例えば、高度が高くなると低気圧環境となり放電しやすくなるので、それをどう抑制すればいいのか。そうした技術要素まで分解すれば、技術屋が技術の話をする限り、議論はかみ合う。

JADCの戸井氏:航空機分野では、「軽さ」を重視する。モーターであれば、重さ当たりの出力密度を、2次電池であれば重さ当たりのエネルギー密度を高めることが求められる。一方で、これまでのパワーエレクトロニクス(パワエレ)は、航空機業界からしてみると、軽さを十分に考慮したものではなかった。とはいえ、モーター単体や2次電池単体で改良を加えればいいわけではない。電動化というと、要素技術単体に話がいきがちだが、全体でどう軽量化したり、高密度化したりするのか、「機体目線」で検討することが重要である。安全性の確保も同様だ。そのため、機体メーカーやエレクトロニクスメーカーといったさまざまな立場の企業との「すり合わせ」が不可欠になる。それだけに、航空機業界とエレクトロニクス業界が議論できるECLAIRは重要な場だと思う。

 エレクトロニクス業界の人たちと議論して感じたのは、電子部品は機械部品に比べて壊れやすいという認識が必要だということ。一方で、それを前提に、エレクトロニクス業界には信頼性を設計する手法があることを知った。それを踏まえて電動航空機でどう安全性を確保できるのか考えていきたい。それこそが機体メーカーとして、ECLAIRで果たすべき役割だろう。

パワエレでは、これまでの体積当たりの出力密度やエネルギー密度を考慮してきた。

三菱電機の岩田氏:パワエレの高密度化をけん引してきた自動車では、車体の空いたスペースにいかに詰め込んでいくかという考え方で、体積当たりの出力密度を向上させてきた。航空機の場合、ここにさらに重さ当たりの出力密度という指標が加わる。これまで培った小型化技術を取り入れると共に、重さ当たりの出力密度を高める新しい技術開発が必要になる。例えば、電圧を高めて電流を減らし、ケーブルを細くして軽量化したり、低損失なSiCパワーデバイスを利用して冷却器を軽くしたりすることが考えられる。このとき、単に軽くすれば済むわけではなく、信頼性も同時に向上させる必要がある。

軽量化と信頼性の確保はトレードオフの関係にあるのか。

岩田氏:一般的にはそうで、堅牢な電子部品はそれなりに重さがある。そして軽量なエレクトロニクスは、堅牢さを犠牲にする面があるのは事実だ。しかし、エレクトロニクスの特徴はち密な制御技術であり、それらを駆使することで脆弱性を補って信頼性を高められると考えている。

IHIの大依氏:トレードオフの関係にあるものを解決していくには、機器レベルやユニットレベル、パワーモジュールレベルで考えるとともに、それらを組み合わせたもう1つ上のレベルで考えることも重要だ。現在の航空機における冗長性とは違った意味での「多重化」や「協調化」の議論が、電動化で必要になってくる。