電極を含めほぼすべてを樹脂で形成する全樹脂電池が量産に向かう。同電池を考案した慶應義塾大学の堀江英明氏が、低コストの大量生産技術を確立するための会社を設立。共同開発先の化学メーカーである三洋化成工業が子会社化し、同社自ら電池事業に取り組む。同電池は、設備投資額を従来の数十分の1に、材料コストは半減できるという。巨大な2次電池メーカーを駆逐する可能性を持つ。

 全樹脂電池は、製造工程が従来とは全く異なるLi(リチウム)イオン2次電池である1)、2)。構造上、工程が簡素で、無駄な部材が不要なために低コスト化しやすい。当面の価格目標は15円/Whだ。定置用蓄電池や電気自動車(EV)用2次電池の長期的な目標である10円/Whも視野に入る。安全性は高く、発火の原因となる短絡は、たとえくぎを打っても生じにくい。

 数多くの利点を備えながら、量産に乗り出す電池メーカーはこれまでなかった。既存の2次電池とは製造工程が異なることによる。考案した慶應義塾大学・特任教授の堀江英明氏と共同開発中の三洋化成工業は、パイロットラインで全樹脂電池を試作し動作確認した実績はあるものの、自ら製造することはなかった。量産ノウハウを持たないためだ。

 ここへ来て堀江氏が動いた。2018年10月に全樹脂電池の量産技術を確立するための会社「APB株式会社」(東京・港)を設立した。同氏が代表取締役社長を務める。慶應大学が主体のベンチャーキャピタル、慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)とともに共同出資する。

 新会社の目標は「既存の1/10以下の設備投資額で高速かつ高歩留まりに大量生産できることを確認し、そのための製造装置と製造レシピを提供可能にする」(堀江氏)ことだ。

 2019年2月には三洋化成がAPBへの出資を決めた(図1)。過半の出資によって子会社化する。APBが確立した技術を基に量産を始め、事業規模を拡大していく。

図1 全樹脂電池の量産技術を確立するための新会社を三洋化成が子会社化
全樹脂電池を研究開発している堀江英明氏(左、慶應義塾大学特任教授)は2018年10月に同電池の量産技術を確立するための新会社APBを設立した。2019年2月には、APBに三洋化成(右の人物が同社代表取締役社長の安藤孝夫氏)が出資し子会社化することを決めた。
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 三洋化成の売上高は約1600億円(2018年3月期)だが、「まずは1000億円の売上高を目標にする。将来的には会社を何個も作るつもりで取り組む」(代表取締役社長の安藤孝夫氏)。APBは、三洋化成以外のメーカーが全樹脂電池を生産したい場合、そのメーカーとの協業も視野に入れる。

 全樹脂電池の研究は、公開特許によると、堀江氏が日産自動車に在籍していた1990年代までに始まった。同社と三洋化成は、2010年代初めには共同開発していた。堀江氏の慶應大学への移籍以降、同氏と三洋化成の共同開発が続いている。

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