台風19号で発生した想定外の「バックウオーター現象」に対し、避難情報の発令が後手に回ったのが、新潟県長岡市の今井地区だ。住宅地が一面、浸水したにもかかわらず、市は避難勧告を出していなかった。今井地区では136戸が浸水しており、深さは最大で1mを超えたとみられる。

 今井地区は、堤防のない小規模河川の浄土川沿岸にある。浄土川は、信濃川支流の太田川に流れ込む、いわば信濃川の「支流の支流」だ(写真1図1)。本流の水位が上昇し、支流の水が行き場を失うバックウオーター現象が起こって氾濫した。

写真1■ 平常時の浄土川。左側が今井地区(写真:日経 xTECH)
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図1■ 信濃川支流で想定外のバックウオーター現象
氾濫した浄土川の位置図。沿岸の今井地区で1m以上の浸水が生じた
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 しかし、浄土川のハザードマップでは、バックウオーターによる氾濫を想定していないため、今井地区は浸水想定区域に入っていない。これまで内水氾濫による冠水はあったが、市が仮設ポンプで排水してきたので大した被害は出ていない。

 市危機管理防災本部によると、台風19号で今井地区を含む市内複数箇所が冠水したため、2019年10月13日午前3時半から各地に仮設ポンプを配備。今井地区では午前8時ごろに排水を始めた。市は当初、これで水を処理できると踏んでいた。

 排水によって、今井地区では午前9時過ぎに水が引いてきた。ところが、1時間ほどで再び水位が上昇。排水が間に合わなくなった。10時前には浄土川が氾濫していたようだ。

 雨は既にやんでおり、浄土川の上流でも強い雨は降っていない。信濃川の増水でバックウオーター現象が起きたのは明らかだった。バックウオーターで太田川の水位が上昇し、その影響で浄土川が氾濫した。

 危機管理防災本部は、浄土川の氾濫をその時点で把握していなかった。現場の排水作業を担当していた市下水道課は分かっていたはずだが、同課から氾濫に関する連絡は本部になかった。本部は住民からの通報で午後1時ごろに氾濫を知った。

 それとほぼ同時に、市は信濃川の増水を受けて、今井地区などに避難準備情報を出している。今井地区は信濃川の浸水想定区域に入っているからだ。「まずは準備情報を出したが、間を置かずに勧告を発令する準備もしていた」と危機管理防災本部の川上英樹危機管理担当課長は言う。しかし、信濃川の水位が正午をピークに下がり始めたので、避難勧告は出さなかった。

 避難情報は通常、河川の水位の状況などを見ながら、その沿岸地域を対象に発令する。浄土川には水位計がなく、避難情報発令の基準となる水位も設定されていない。そのため、市は浄土川を対象とした避難情報の発令は考えていなかったという。

 ただ、今回のバックウオーター現象による浄土川の氾濫は、信濃川の増水が原因だ。信濃川が支流を通じて氾濫したとも言える。「今後、信濃川や太田川が増水した場合は、バックウオーターを考慮して避難情報を出すことも想定しないといけない」と川上担当課長は話す。

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