中小の建設会社は大手のように広報や採用活動に費用や人員を割けない。だが、独自の取り組みで、新卒採用に成功している会社がある。売り手市場の逆風が吹く中でも若手を「採れる」会社は何が違うのか。

「なぜ、御社の採用はうまくいっているのか」。三和建設(大阪市)の森本尚孝社長は、同業の経営者からしばしばこんな質問を受ける。

 三和建設の従業員数125人(2018年時点)に対し、19年4月の新入社員は14人(図1)。新卒採用に苦戦する地方の中小建設会社が多いなか、突出した実績を誇る。知名度が低い建設会社が学生を集める方法を知りたがる会社が出てくるのも無理はない。

図1 ■ 全社を挙げた総力戦で採用数を伸ばす
退職者数には内定辞退者数を含まない(資料:三和建設)
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 森本社長の答えはシンプルだ。「学生に知ってもらい、選ばれるために、他社よりもエネルギーとコストをかけている」。

 その言葉を裏付ける数字がある。三和建設が1人の学生の採用にかける時間は最大で延べ約140時間に上る。その背景には、他社と一線を画す独特の選考方法がある。面接は、社長と1対1で話す第4次選考しかない。他は全てグループワークとプレゼンテーションで構成し、泊まりがけで実施する選考もある。

 選考の過程で学生が体験する内容は2つある。食品工場の建設に特化した事業戦略や求める社員像など、三和建設に関する情報のインプットと、学生自身の人生観や仕事観の洗い出しだ。社員や他の学生との会話や作業を通じて、本当に入りたい会社かどうかを改めて考えてもらう。

 その間、会社は学生が「会社の価値観に共感できているかどうか」を見極める。最終選考前には学生に社員がほぼマンツーマンで寄り添い、相談役となる。選考段階で価値観のすり合わせを徹底した結果、直近3年間で新卒入社した人の退職率は1割を切っている。

 これほどの対応を実現するには相応の社員数が要る。19年4月入社の採用活動に携わった社員は延べ722人。人件費に換算すれば相当な額になるが、「必要な投資」(森本社長)と割り切る。

採用のためなら他現場も協力

 現場の中心となる社員を採用活動に駆り出す取り組みには当初、社内からの反発があった。だが、今では採用活動に全社が総力を挙げて臨む。入社3年目の六嶋瞬氏は、「採用活動で現場を空けるときには、他部署や他現場の人の助けを借りることもある」と話す。

 三和建設の新卒採用の応募倍率は右肩上がりだ。19年卒採用では約20倍に達した。しかし、初めから順調だったわけではない。建設業界を不況が襲った2000年代前半には、ベテラン社員の退職で人材不足が顕在化。採用を試みても、思うような結果が出ない状況が長く続いた。

 危機感を募らせた森本社長は、13年に経営理念「つくるひとをつくる」を打ち出し、社員を経営の中心に据える方針を明確にした。人材の育成と採用を重視する姿勢を繰り返し強調し、マネジメント層を中心に社内への浸透を図った(図2)。

図2 ■ 社員に「人材重視」のメッセージを毎年配る
三和建設のコーポレートスタンダード。人材の育成と採用を重視する姿勢を行動規範に落とし込んだ。2013年に初版を作成して以来、社長自らが毎年内容を更新して社員に配布している(資料:三和建設)
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 「上司や先輩の質問への対応などからも、『育てよう』という思いを感じる。自分も後輩を引き上げる存在でありたい」と六嶋氏は意気込む。

森本 尚孝氏
三和建設 社長
森本 尚孝氏 “つくるひとをつくる”
1971年生まれ。大阪大学工学部建築工学科卒業、同大学院修了。鹿島での勤務を経て、2001年に三和建設に入社。08年に同社4代目社長に就任した(写真:日経コンストラクション)

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