2012年(平成24年)12月、中日本高速道路会社が管理する中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落し、9人が死亡した。多くの技術者を抱え、維持管理に注力していたはずの組織で起こった事故は業界に衝撃を与え、インフラの定期点検や補修に本格的に取り組む契機となった。

INTERVIEW≫ 中日本高速道路会社 取締役常務執行役員 源島(げじま) 良一氏

(写真:日経コンストラクション)

げじま・りょういち
1984年に日本道路公団入社。2018年6月から現職の取締役常務執行役員保全企画本部長。高速道路の点検、補修、リニューアルプロジェクト、耐震補強など保全・サービス事業全般を担当

事故の背景に「過信」、保全との連携強化へ

 なぜ事故が起こってしまったのでしょうか。

 安全であるべき高速道路で9人もの命が奪われる、あってはならない事故を起こしてしまった。お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の皆様に深くおわび申し上げます。また、事故でけがをされた方や、ご迷惑をおかけした皆様にもおわび申し上げます。

 事故の当時も「安全・安心・快適」を経営理念に掲げて、高速道路の管理に取り組んでいました。それでも人命に関わる事故が起きたのは、利用者の安全を何よりも優先するという当たり前のことが、毎日の業務の中で埋もれてしまっていたからです。

 コンクリートの剥落など目に見える変状には優先して対応していた一方で、経年劣化すると言っても、まさか天井板が落ちるとは考えていない一面がありました。大地震に耐えられるように設計した構造物が、普段の車両の通行によって壊れるはずがないという「構造物への過信」があったのです(写真1)。

写真1■ 2012年12月に天井が崩落した笹子トンネル。事故発生の翌日深夜に撮影した。車両走行部と換気部を分ける天井板を、接着系あと施工アンカーで吊っていた(写真:山梨県大月市消防本部)
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 二度と事故を起こしてはならないという強い決意の下で、安全に関する社内の認識に問題がなかったかどうか検証した結果、安全を最優先する企業文化を再構築する必要があるという課題が浮かび上がりました。

 具体的な取り組みを教えてください。

 社員一人ひとりが、常に事故は起こり得るという認識を持ち、潜在的なリスクに気づけるよう経営陣が直接語り掛けています。率先して現場に出て社員と一緒に点検し、安全をテーマに議論することで、経営陣の方針と現場の意識との乖離(かいり)をなくすのです。社長も現場に行きます。

 とはいえ、経営陣が毎日出向けるわけではありません。点検や構造物の健全度に関する知識を持ち、自分で責任を持って安全確保に取り組める人材を育てるための研修を充実させ、計画的に実施しています。

 笹子トンネル事故を振り返る安全啓発研修は、18年度に全社員の受講が完了しました。19年度から始める2巡目は、安全管理をより深く理解できる内容を検討しています。

 事故が風化していくと、直接的に関わっていない社員や、事故後に入社した社員は、人ごとと感じることもありそうです。

 社員にアンケート調査をすると、現場担当者クラスと管理者クラスといった階層間や、グループ会社間で安全への意識に差があります。目指す方向はそろっていても、気持ちの強さが違うのです。この差を埋めたいと思っているところです。

 管理者は業務全体を見渡して安全を考えることができますが、現場担当者は目の前の仕事を進めることが大事ですので、維持管理などに気が十分に回らないのかもしれません。

 しかし、安全管理は事務などを含めた全ての社員が一丸となって取り組まなければ意味がありません。これさえやればうまくいくという定石はなく、様々な取り組みを試しながら、安全を最優先するように社員に働きかけ続けることに尽きます。

 事故後、維持管理や点検の業務で変えたことはありますか。

 構造物の設計から点検、補修までは、専門性により業務が分かれていますが、この部門間が連携して意思疎通できる仕組みを整えています。

 例えば、設計段階の会議に建設部門だけでなく保全部門の社員も加わるようにしました。建設部門が維持管理のしやすさに配慮して取り入れた構造や仕組みが本当に有効かどうか、保全担当者の意見を聞ける場です。点検のしにくさなどの課題を設計に生かすこともできます。

 以前は、道路を供用する直前の引き継ぎで両者が立ち会うことはありましたが、この段階で意見交換しても構造物に反映しきれません。早期に部門間でコミュニケーションを取るかどうかは建設工事事務所の所長などの属人的な判断に任されていましたが、これを組織的にできるようにルールを作っています。

 構造物の劣化は進み、管理する人手は不足する一方です。

 建設業界は担い手不足が深刻なのに、依然としてマンパワーに頼る部分が多い。しかも、災害の激甚化や南海トラフ地震への対策など、やるべきことは増え続けます。人の目視点検に限界があるのは明らかです。

 14年7月と15年4月に点検要領を見直し、近接目視による変状の把握が困難な箇所では赤外線カメラなどを使った非破壊検査の活用を進めています。今後は、AI(人工知能)やロボットの技術が点検作業やデータ整理を担い、人の仕事は点検データの診断になっていくでしょう。

 建設年度や交通量、環境条件が異なる道路構造物を管理するには、経験と知識のある人材が不可欠です。研修のほか、グループ会社と人事交流して現場業務の経験を積めるようにしたり、資格や学位の取得を支援したりして、社員の安全管理に関する技術力の向上を図っています。

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