日本各地でビッグプロジェクトのつち音が響いていた平成初期。その代表格が、神奈川県と千葉県をトンネルと橋で結ぶ東京湾アクアラインだ。高水圧下で直径14mの巨大なシールドトンネルを掘る技術は、その後の多くの土木事業の礎となった。

INTERVIEW≫ 鹿島 東京土木支店土木部土木工事部長 米沢 実氏

(写真:日経コンストラクション)

よねざわ・みのる
1960年生まれ。東京都立大学工学部機械工学科を卒業し、84年に鹿島入社。88年からアクアラインの計画業務に携わり、92~98年にアクアラインの川崎トンネル川人北工事を担当。その後、東西連係ガス導管工事、首都高中央環状品川線トンネル工事などに従事し、2018年から現職

大断面道路トンネルの「標準」確立

 東京湾アクアラFインのシールドトンネルは、技術的にどのような特徴があったのでしょうか。

 特徴は3つ挙げられます。まず、大断面。14.14mというシールド機の外径は、当時最大だった神田川地下調節池(第1期)の13.94mをしのぐものでした。次に、長距離掘進。今でこそ8kmを超す掘進の実績がありますが、当時としては1kmでも長い方です。そして3つめが、海底下に掘削するため0.6MPaという高い水圧がかかることです。これらの課題を解決するために、様々な検討や技術開発を繰り返しました。

 最も大きな課題が、高水圧下でトンネルの止水性を確保することでした。海水の浸入を防ぐためにセグメント間に水膨張性のシール材を入れましたが、採用実績が少なかったので、0.6MPaの水圧に長期間耐えるためにどんな性能が必要か、長い時間をかけて検討しました。

 高水圧下かつ大断面ということで、セグメントは桁高650mm、幅1.5m、重さ10tと巨大なものでした。高炉スラグを50%混入して緻密性を高めたほか、継ぎ手性能に優れた「長ボルト」を使って接合する方式にしました。そして、その巨大セグメントの組み立てを完全自動化したのも特徴です(写真1)。

写真1■ 1次覆工が終わったトンネル内部(右)と、セグメント自動組み立ての様子(左)。右は西松建設JV、左は鹿島JVの工区。1995年に撮影(写真:日経コンストラクション)
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 施工中に苦労した点や、課題となった点はありますか。

 セグメントの自動組み立てでは、長ボルトを送り出してナットを両側で締める機構が複雑で、初めは1リングを組み立てるのに2時間ぐらいかかりました。ただ、掘進自体は順調に進み、大きな問題はなかったと感じています。むしろ大変だったのが、人の移動や資機材の運搬です。

 鹿島JVの工区は、川崎市の沖に造成した川崎人工島からシールド機が発進し、川崎側に向けて掘り進みます(図1)。当然、アクアラインはまだ無いので、シールド機もセグメントも全部、船で運んで人工島で陸揚げするしかない。コンクリートは生コンのプラント船を係留して造る。時間もコストもかかるし、海が荒れて船が出せなくなれば工事が止まる恐れがあります。人工島では、常に3日分の材料をストックしておきました。

図1 ■ トンネル各工区の施工者と掘進距離
東京湾横断道路会社の資料や取材などを基に日経コンストラクションが作成。図中の矢印は掘進の向き。JVの社名は略称で表記。ハザマは現在の安藤ハザマ、住友(住友建設)と三井(三井建設)は現在の三井住友建設、青木(青木建設)は現在の青木あすなろ建設
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 アクアラインで検討・開発された技術は、その後のプロジェクトにどんな影響を与えたのでしょうか。

 例えば水膨張性シール材については、この工事での検討結果が現在の仕様の基になっています。それ以外にも、シールド機の耐水圧仕様とか、掘進しながら後方で並行して躯体を構築する方式など、大断面道路トンネルのスタンダードなやり方を確立できたのがアクアラインの工事だったと言えると思います。

 一方、時間を要していたセグメントの組み立てについては、セグメントの構造の改良が進みました。最近では、ボルトを使わない「ワンパス型」と呼ぶ締結方式が主流になって、組み立て時間も半分以下で済むようになりました。セグメント組み立て時間の短縮効果もあり、アクアライン以降、長距離・高速施工というニーズが高まりました。

 もし、今の技術でもう一度アクアラインを造るとしたら、どんな工事になるでしょうか。

 橋梁部を造らず、1台のシールド機で直接対岸まで掘るというトライになるんじゃないでしょうか。少なくとも、川崎側から海ほたるまでは1台で確実に行ける。アクアラインの工事で4カ所実施したシールド機同士のドッキングは不要になります。

 アクアラインは平均月進が100~150m程度でしたが、今ならもっと速く掘れる。川崎人工島も要らなくなれば、切り羽に陸上からアプローチできるので、施工の効率もさらに高まります。1台で長距離を掘ったとしても、当時と変わらない期間で完成するかもしれません。

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