猛暑、地震、集中豪雨―。相次ぐ災害への備えに、スーパーコンピューターは欠かせないツールとなった。過去の災害を再現するだけでなく、未来に起こり得る現象を予測できる。行政や企業は自然災害をシミュレーションして、防災に役立てている。

1.ヒートアイランド対策
スパコンの「設計」で初施工

 2018年の夏は災害級の暑さだった。総務省によると全国で7万人以上が熱中症で搬送され、08年の調査開始以来、最悪の記録となった。

 都市部で特に熱中症が多い原因の1つが「ヒートアイランド現象」だ。アスファルトやコンクリートが熱をため込んで放射する他、気温の上昇を抑える緑地が少ないため、郊外よりも暑くなりやすい。埼玉県熊谷市では18年7月に、国内の既往最高気温を更新する41.1℃を記録した。

 そんな暑さに悩む埼玉県は18年8月、熊谷市の熊谷スポーツ文化公園で先進的なヒートアイランド対策の工事を完了した。海洋研究開発機構(JAMSTEC)のスーパーコンピューター(スパコン)を使って、遮熱舗装や植栽の効果をシミュレーションで事前に検証。その結果から最適な対策を選んで施工した初めての事例だ。温度の上昇を効率的に抑え、工費の削減にもつながる。

 公園には、19年にラグビーワールドカップを開催する県営熊谷ラグビー場がある。バスの停留所から会場までは日陰が少なく、直射日光を浴びながら約10分歩かなければならない。暑さ対策が必要だった。

 「1本の植栽に100万円程度かかることもある。シミュレーションで、遮蔽効果が最大になるよう木を配置した」と、埼玉県環境科学国際センター研究推進室の嶋田知英副室長は話す。ヒートアイランド対策は、効果の計算が複雑なため、経験則に基づいて計画するのが一般的だ。対策に伴う温度や湿度の変化は、工事後に計測していた。

計算を終えるまでに数週間

 計算に使うJAMSTECのスパコン「地球シミュレータ」は、建物や地面での太陽光の反射、樹木による蒸散効果などを計算し、大気に与える影響を予測できる。温度、湿度、風向き、風速に加え、建物や樹木の影響を考慮した膨大な計算が可能だ。

 公園を中心とした5km四方のエリアで地形や建物の形状、土地の利用状況の他、樹木の情報を収集。3次元のCADデータに統合し、周辺環境の影響を踏まえて公園の温度や湿度の変化を予測した(図1)。モデルを作り始めてから計算が完了するまでの期間は2~3週間だ。

図1■建物や樹木の情報を取り込む
熊谷スポーツ文化公園の3次元モデル(資料:海洋研究開発機構)
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 計算の結果、アスファルト舗装を遮熱舗装に変えると、地表面温度が日なたで約9℃低下すると分かった。舗装の種類ごとに熱の吸収と反射の割合を設定して予測結果を比較すると、最適な舗装を選定できる(図2)。

図2■最適な舗装選定や樹木配置にシミュレーションを生かす
ヒートアイランド対策前後の公園内の地表面温度。左は対策前の公園内の地表面温度、右は対策後。中央にある楕円形の「彩の国くまがやドーム」周辺の植栽箇所で温度が下がり、青色の部分が増えた(資料:埼玉県)
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 並木道では、樹木を平行に植えるよりも木陰の面積が5%増える千鳥配置を採用した(写真12)。熱中症の危険性を示す暑さ指数が「厳重警戒」または「危険」となる地点は、20%減ることを確かめた。

写真1■植栽前の熊谷スポーツ文化公園。右に見えるのは彩の国くまがやドーム(写真:埼玉県)
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写真2■植栽後の熊谷スポーツ文化公園。駐車場からラグビー場へ向かう道に高さ10mのケヤキを63本植えた。シミュレーション結果に基づいた施工は18年8月に完了した(写真:埼玉県)
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>>より詳細な情報は「みら☆どぼ」ウェブサイトの『ラグビーW杯のヒートアイランド対策、スパコンの「設計」で初施工』の記事へ

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