二相ステンレス鋼で複雑な水中梁を実現
遺構を保全し、復元橋の耐用年数延ばす

 JR鳥取駅から北東に約2km。堂々たる石垣が続く山城、鳥取城跡の玄関口に、「擬宝珠橋(ぎぼしばし)」が復元整備された。明治元年に架け替えた橋を正確に復元。橋脚の位置は旧橋を踏襲しており、側面から橋を見ると、8つの支間の長さは全て異なる(写真1)。

写真1■ 2018年9月に竣工した鳥取城跡にある「擬宝珠橋(ぎぼしばし)」。ステンレス鋼製の水中梁の上に木造の橋を復元した。橋長は約37mで国史跡の城跡にある復元橋としては国内最長となる(写真:生田 将人)
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 見た目はいかにも昔ながらの木橋だが、水面下に現代の設計手法と技術を駆使した仕掛けが潜む。井桁状に組んだ水中梁だ。堀底の遺構を保全するために必要で、木橋の腐食を防ぐことにも貢献している(写真2)。

写真2■ 堀をのぞくと水中梁がうっすらと見える。橋脚遺構の上部に梁を渡して、復元橋の木製橋脚を配置。水面から橋脚を約10cm上げる効果があり、木の腐食を防ぎ、木橋の耐用年数を向上させる。水中梁が見やすいようにフィルターを付けて撮影した(写真:生田 将人)
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 擬宝珠橋の創建は400年前の江戸時代に遡る。10回ほどの架け替えや修繕を重ねて明治後半まで存続し、その後は近代木造橋やコンクリート橋に架け替えられた(写真3)。

写真3■ 明治10年頃に撮影。写真も部材の寸法を算出する手掛かりに(写真:鳥取市)
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 今回の復元整備に先立ち、鳥取市は先代のコンクリート造の旧橋で、2011年に発掘調査を実施(写真4)。橋が架かる堀は1970年代に重機で浚渫しており、橋の痕跡は残っていないと予測されていた。ところが橋の堀底から、計3世代分の木製橋脚の基底部が69本検出された。

写真4■ 発掘調査ではコンクリート橋(1963年建造)の下の地盤から、69本の木製の橋脚遺構が出土した(写真:鳥取市)
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 「貴重な遺構なので埋め戻さず、水中で永続的に保存する方針とした」。市教育委員会文化財課の細田隆博文化財専門員は、こう振り返る。

 復元橋の設計を担当した文化財保存計画協会の赤澤泰主任研究員は、次のように話す。「69本のうち、明治元年に架け替えた橋について橋脚の痕跡が全て確認できた。古写真もありこの橋を復元対象とした」。

 市の設計条件は、「検出した遺構を傷めず残して、木橋の形状を復元する」、「現状の既設コンクリート橋の基礎構造物を利用する」というもの。

 まず撤去するコンクリート橋のうち、橋脚2基と橋台2基の基底部を復元橋の基礎として再利用し、井桁状に組んだ水中梁と連結。その上に木橋を載せた(図1)。景観上の観点から、梁は水面から30cm下に潜らせた。一方、そのせいで遺構の頂部とのぶつかりが生じてしまう。そこで、遺構から少しずらしてメインの梁を配置。さらに梁の一部を張り出し、当時と全く同じ位置での復元橋の橋脚配置を実現した(写真5、6)。

図1 ■ 擬宝珠橋の3次元図
撤去したコンクリート橋のうち基礎を残して二相ステンレス鋼の水中梁をその上に設置。さらに上から木橋を載せた。ハイブリッドの二重構造の橋となった(資料:戸田建設)
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写真5■ 井桁状に組んだ水中梁の間から、張り出している箇所。その上に復元橋の橋脚が立つ。梁の上面は低視認性塗装とした(写真:楢崎製作所)
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写真6■ 明治元年の橋脚遺構は、張り出した水中梁の下(復元橋の橋脚の真下)に位置する。水中梁の横に見える円形状の物体は、別時代の遺構(写真:生田 将人)
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 水中梁を設計した大日本コンサルタント経営統括部経営企画部の松井幹雄部長は、「遺構を傷つけないように水中梁との離隔を50mm確保しながら、構造設計者とやり取りを重ねてパズルを解くように設計した」と話す。

 複雑な構造形式の成立には、材料も一役買っている。水中梁には、一般的なステンレス鋼に比べて強度が高く耐食性がある二相ステンレス鋼を採用した。遺構との離隔が限られているなかで、梁の桁高を小さくする必要があり、高強度の二相ステンレス鋼はまさに打ってつけ。軽量化につながるので、既存の橋脚や橋台への負荷を抑えられる。そして極めつけは、メンテナンスフリーの土台を組めるということだ。「次の更新時は、木橋の架け替えだけに全勢力を注げるようにと考えた」(松井部長)。

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