魚やノリの養殖、競り、鮮魚販売など水産業にAIやIoTを活用する動きが増えている。自然相手の過酷な重労働を減らし、産業全体の競争力を引き上げる狙いだ。担い手の高齢化問題を解決する可能性も秘める。養殖効率を上げる「大漁」データ活用、競りのIT化など水産業のIT活用、いわば「漁師」コンピューターの今に迫る。

 マダイ(真鯛)の稚魚選別、ブリの体重推定──。人手に頼っていた重労働をAIに置き換える動きが始まった。近畿大学や日本水産グループにおける、養殖現場の最前線を取材した。

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マダイの稚魚を選別する作業の様子(写真提供:日本マイクロソフト)

 古くから縁起物として親しまれてきたマダイ。日本人が天然物を口に運ぶ機会はめったにない。農林水産省によると、2017年に取れたマダイの約8割は養殖物だ。

 マダイの養殖は稚魚の選定作業が鍵を握る。「マダイは祝いの席に使う魚。形にこだわる業者が多い」。近畿大学の谷口直樹水産養殖種苗センター種苗事業部長はこう証言する。同センターは研究の一環としてマダイの稚魚を育てている。だが稚魚の選定は過酷な作業だ。同センターが出荷する稚魚の数は年に約1200万尾に上る。今は生育不良の稚魚を目視で取り除いており、従業員の負担になっていた。

 そこで同センターは2018年12月から、稚魚の選別にAI(人工知能)を導入すると決めた。従業員の負担を減らして効率を高めるのが狙いだ。

ポンプの流量をAIで自動調節

 近大の水産養殖種苗センターはマダイの稚魚を8~10センチメートルまで育て上げ、毎年5~6月と12~1月に近大発ベンチャーのアーマリン近大を通じて養殖業者に販売している。稚魚の供給量は国内シェア約24%という。

 稚魚は海面に浮かぶ作業用のいかだの上で選別する。いけすの稚魚を海水ごとポンプでくみ上げ、稚魚をベルトコンベアに乗せる。コンベアを流れる間に担当者が生育不良の稚魚を取り除く。コンベアは4台あり、1台当たり3人がかりで作業を担う。

 稚魚を正しく選別するには、ポンプの流量調節が欠かせない。担当者3人の作業量を超えないよう、コンベアに流す稚魚の数を一定に保つ必要があるからだ。この流量調節にAIを導入して自動化した。「稚魚は動き回るので、人手ではうまく調節できない場合もあった」(谷口部長)。

 AIの活用に当たり、ポンプの入り口と出口にカメラを1台ずつ設置した。透明なパイプに流れる稚魚の魚影をカメラで撮影し、面積当たりの尾数を判断。結果を基にポンプの流量を自動で調節する。「撮影環境は屋外なので太陽光などの影響を受ける。明るさを一定に保てるよう工夫した」と谷口部長は説明する。近大が日本マイクロソフトなどと開発した。

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図 近畿大学が構築した、マダイの稚魚を選別するシステムの概要
画像処理でポンプの流量を自動調整(注:日本マイクロソフトと近畿大学の資料を基に日経コンピュータ作成)

 カメラで撮影した画像は3G回線を通じてマイクロソフトのクラウドサービスに送る。画像を基に回帰モデルを使って適切な流量を見極めて、ポンプを制御する仕組みだ。複数のアルゴリズムを試して精度が高かったものを採用したという。

 同センターはポンプの自動調節をAI活用の第1段階と位置付けている。今後は生育不良や奇形の個体をコンベアから取り除く作業もAIで自動化する計画だ。「実現すれば担当者をコンベア1台当たり1人に減らせる。その分コンベアを増やせるので生産性を高められる」と谷口部長は期待する。

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