通信速度は100倍に――。第5世代移動通信システム(5G)の商用化に向けたプレサービスが2019年夏ごろにスタートする。「スマホで動画が見やすくなる程度だろう」と侮ってはいけない。様々な産業が「場所」の制約から解き放たれる、5Gの新世界に迫る。

駅や野球場、高速で移動する新幹線の車内――。人が集まり、動くところに高速通信のビジネスチャンスがある。通信大手は鉄道会社などと需要喚起に挑む。

 「データのダウンロードは毎秒1ギガビットほど、アップロードは毎秒数百メガビットの実効速度で通信できた」。KDDIの松永シニアディレクターは東日本旅客鉄道(JR東日本)との実験を満足そうに振り返る。

 両社は時速100キロメートルで走る電車に向けて、5G通信で8Kのストリーミング映像を送り、同時に運転席で撮影した4Kカメラの映像を受信できるかを検証した。1.5キロメートルほどの対象区間の線路に沿って、28ギガHz帯の基地局を複数設置した。

図 KDDIとJR東日本が実施した、鉄道車両による5G通信試験
時速100キロメートルの電車内で5G通信  JR東日本は試験電車を走らせて5G実験に臨んだ(写真提供:KDDI)
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 5G向けに広帯域を確保できる28ギガHz帯は直進性が高く減衰も大きい。これに対し実験では、基地局と端末との間で超高速の通信状態を確立するビームフォーミングや、端末の移動に合わせてビームフォーミングの方角を変える「ビームトラッキング」、さらに端末が隣の基地局のカバー範囲へ移動した際に通信を途切れさせずに基地局を切り替える「ハンドオーバー」の各技術をフルに盛り込んだ。

 下り毎秒1ギガビット程度の水準で安定的に実効速度を確保できれば、様々な応用が考えられる。例えば車内の液晶ディスプレーを使った動画配信は現状では車内の配信サーバーに蓄積した映像にとどまるが、外部からより即時性のある映像をリアルタイムに配信できるようになる。JR東日本にとっては広告ビジネスの拡大につながる可能性がある。

 一部で提供している車内の公衆無線LANも、5Gを中継回線として使うと大幅に速度を向上できそうだ。つまり乗客サービスの向上も期待できる。

 通勤通学客の取り込みに向け、両社は車内だけでなく駅構内も28ギガHz帯の基地局でカバーしようとしている。駅構内は「ホームの屋根や時刻表の看板、ゴミ箱などの遮蔽物がある。停車中の電車の有無によっても電波特性が大きく変化する」(KDDIの松永シニアディレクター)。

 走行中は5Gで通信できても、大勢の人が行き交う駅構内を5Gでカバーできなければ使い勝手は落ちる。カバー範囲の小さい5G基地局を駅構内に多数設置する手もあるが、費用上、むやみに増やすわけにもいかない。

 そこで駅に隣接する空き地に高所作業車を据えて、長いアームの先に5G基地局を仮設した。そこからビームフォーミングの技術を使い、細長い駅のホームに向けてその形に5G電波を発射した。

図 KDDIやNTTドコモによる性能検証
混み合う駅でも、レーシングカーでも5G通信  KDDIとJR東日本による、駅構内を5Gエリアに変える実証実験。ビームフォーミングで電波をホームに発射(写真提供:KDDI(駅))
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 アンテナの高さや角度を微調整しながらホームの各所で受信感度を測定し、駅構内を5Gのエリアに変える方法を探った。「工夫すれば28ギガHz帯も使えるとの手応えを得た」と松永シニアディレクターは話す。

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