AIやIoTを駆使する「畜産テック」によって、人手を中心とした畜産・酪農の現場が変わり始めた。デジタル化する牧場の現場を見てみよう。

重さ100キロの豚の体重測定に、数万羽の鶏から死骸を仕分ける作業。動物を相手にする畜産農家の毎日は重労働の連続だ。瞬時に見分けるAIが、農家の頼もしい助っ人になる。

 「熟練者の目勘(めかん)を再現できないか」。2017年2月、伊藤忠飼料の情報システム開発チーム長代行兼飼料営業チームの福永和弘氏はNTTテクノクロスに問い合わせた。「目勘」とは養豚業界の用語で、豚の見た目から体重を推定する技術を指す。熟練者の推定誤差はなんと3キログラム以内という。

 誰でも簡単に目勘ができるよう、両社が共同開発したシステムが「デジタル目勘」だ。カメラと深度センサーを備えた専用端末で豚を上から撮影すると、体重のほか頭や内臓を取り除いた枝肉の重さを瞬時に推定、表示する。「これまでの画像解析のノウハウが生かせた」とNTTテクノクロスの冨田清次IoTイノベーション事業部統括マネージャは話す。実測値との誤差は現在5%ほど。3%まで改良したうえで2019年の製品化を目指す。

デジタル目勘(右)で豚の画像を撮影
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体重の推定結果
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「デジタル目勘」で豚の体重を推定する仕組み。熟練者並みの目利きをAIで再現する
(画像提供:NTTテクノクロス)

痩せても太ってもダメ

 豚肉は出荷時の重量や肉質によって上、中、並など5段階の等級に格付けされる。例えば上物なら1頭の枝肉の重さを65キロ~80キログラムに収める必要がある。体重不足はもちろん、0.1キログラムでも超過した場合も「格落ち」となり価格が下がる。「格付け結果は養豚農家の通信簿だ」。栃木県のぜんちく那須山麓牧場で次長兼肉豚係長を務める柴田好雄氏は言い切る。いかに効率よく高い等級の豚を出荷できるかが経営に直結する。

 豚は1日1キログラムのペースで体重が変わるため、こまめに体重を測り最適なタイミングで出荷することが望ましい。とはいえ100キログラムを超えることが多い豚を押さえ込みながら専用の体重計に乗せる作業は、「成人男性2人がかりでも重労働だ」(伊藤忠飼料の福永氏)。それも1頭や2頭の話ではない。そのため「1週間に1回測ればよい方。あとは勘と経験で補うことが多い」(同)のが実態だ。

体重計に豚を乗せるのは2人がかりの重労働だった
(写真提供:NTTテクノクロス)

 NTTテクノクロスはデジタル目勘の開発に当たり、事前に撮影した数百頭の豚の写真と、それに紐づく体重や距離といった情報をAIで学習したモデルを構築した。計測時は利用者が撮影した豚の写真をモデルに照合。専用端末と豚との距離も加味して体重と枝肉の重さを推定する。豚の姿勢や撮影角度の補正には機械学習を使う。まず標準的な豚の品種向けに、伊藤忠飼料が発売する。将来は品種や餌の種類といった条件を選べるようにして、幅広い農家が使えるようにする。

作業時間を5分の1に

 ケージの中で死んだ採卵鶏(レイヤー)の回収作業に目を付けたのが、NECとマルイ農協(鹿児島県)だ。2018年5月、AIを使って画像から鶏の生死を判別する装置を共同開発した。2020年までの実用化を目指す。

 利用者はカメラを載せた台車を押して鶏舎内の通路を進み、ケージの隙間から鶏の足元を撮影する。約36万枚の画像を学習したAIが、死んで倒れている鶏を見つけ出す。精度は9割を超え、作業にかかる時間は人の目で確認する場合の2割ほどで済むという。

 死骸を放置すれば衛生状態は著しく悪化する。卵が死骸に引っ掛かって回収トレーに入るのが遅れ、別の鶏が生んだ新しい卵と混在して出荷されるなどのリスクもあった。

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