世界で700兆円とも言われる「食」の産業がITで変わる。ハングリーに攻める新興勢と、受けて立つ既存勢力。食の市場をITで変革する「フードテック」の最前線を追う。

 現金レス決済、掃除ロボに食洗・配膳ロボ、新型調理器具――。外食大手のロイヤルホールディングスが「フルコース」のIT活用に挑んでいる。客の満足度を高め、店員を働きやすくして会社の成長につなげる狙いだ。

 黄色を基調とした店舗外観。色とりどりのメニュー写真が並ぶ外観から、外食店であることは分かる。だが一見オシャレなカフェを思わせるこの店舗が、実はテクノロジー武装した次世代店であるとは気付きにくい。唯一それを物語るのは、扉の脇に大きく貼り出したCASHLESS(キャッシュレス)の文字くらいだろう。

図 ロイヤルホールディングスが開業した「ギャザリングテーブルパントリー」
新店舗を「技術のショーケース」とした
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 この店は2017年11月にロイヤルホールディングス(HD)が新たに開業した「GATHERING TABLE PANTRY馬喰町店(ギャザリングテーブルパントリー)」だ。R&D(研究開発)拠点と位置づけ、ロイヤルHDがオープンした外食店である。

 開業から1年経ち、行政担当者や小売業といった他業種の担当役員がこぞって視察に訪れる。開店当初話題になった「現金お断り」だけが理由ではない。同店は外食店舗で利用できる技術をふんだんに詰め込んだ「最新ITのショーケース」と言えるからだ。

紙のメニューと伝票、現金が消えた

 客が店に入ると、メニューではなくiPadが手渡される。客は紙のメニューのように綺麗にデザインされたメニュー画面から料理を選び、注文する。注文が入ると、キッチン用ディスプレーに表示され、店員が調理を始める。

 食事を終えた客はiPadの会計ボタンを押す。すると店員のApple Watchに呼び出しがかかり、テーブルの番号が表示される。会計用の端末を持った店員が席に出向き支払いを受け付ける。支払い手段はクレジットカードや各種交通系電子マネーなどが幅広く使える。ただし現金「以外」だ。決済用のアプリとして楽天の「楽天ペイ」のほか、2018年7月からは「LINE Pay」を使ったセルフテーブル決済も可能にした。注文の受け付けから注文票の作成、決済まで一連の処理結果は全てデータとして管理し、物理的な紙や現金は一切使わない。

図「 ギャザリングテーブルパントリー」で採用したシステム
呼び出しにはSlackを使う
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ロイヤルHDはギャザリング テーブルパントリーで、顧客 の注文端末や従業員の端 末にiPhone、iPad、Apple Watchをフル活用した
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 客からの注文や呼び出しがあった際にも、店員のApple Watchに通知が届く。通知を送る仕組みにはビジネスチャットアプリのSlackを利用。外部サービスからSlackにメッセージを送信する機能「Incoming Webhooks」を活用した。Apple Watchの小さな画面でも見やすくするため、会計の場合は財布、呼び出しの場合はベルなどと絵文字を採用。テーブル番号とともに絵文字を送るよう工夫した。

 同社は類似のチャットアプリとしてLINEも検討したが、プログラムの柔軟性の高さからSlack を選択した。LINEの場合、電話番号と紐づけないと使えないこともネックとなった。開発を担当したマウント・スクエアの西出和晃氏は「メールアドレスだけで利用ができること、1つのアカウントで複数端末を管理できることが決め手になった」と話す。店にはiPhoneとAppleWatchをそれぞれ3台ずつ常備するが、全て1つのアカウントで管理することで運用の煩雑さを回避した。

 ロイヤルHDは一連のシステムを独自開発しAmazon Web Services(AWS)で運用している。クラウド上で動かすことで、ロイヤルHDが運営する別の店舗や外出先からも容易にアクセスできる。クラウドの利用により開発期間を実質約4カ月に抑えた。今後はエリアマネジャーなどがリアルタイムに店舗の運営状況を把握できるようにすることも視野に入れる。

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