「あの専門家の手が空くまで待つしかない」。そんな業務のボトルネックを高度なAIで解消しようと挑む企業が出てきた。大林組、花王、損害保険ジャパン日本興亜、商船三井などを追った。

 一度構築したAIは様々な場所に配備できる。限られた専門家にしかできなかった業務をAIが肩代わりできれば、専門家の人数や業務時間という制約を取り払える。一部の企業はボトルネックを解消して事業を拡大するためにAIを使い始めている。

 「工事中に地質の専門家に意見をもらいたいと思っても、社内に数人しかいない。代わりにAIが答えてくれるようになれば現場の技術者はそれを参考にしながらすぐに意思決定できる」。大林組の畑浩二技術本部地盤技術研究部長はAIを開発した狙いをこう話す。

 大林組が開発したAIは山岳部に道路や鉄道などのトンネルを掘る際の工法として一般的な「NATM工法」に向けたものだ。NATMでは「切羽」と呼ばれる断面をダイナマイトで爆破して掘り進めた後、壁面をアーチ状の鋼材で支える。続いてコンクリートを吹き付けて壁を強くして、長さ数メートルの鉄のボルトを打ち込む。その作業が終わったら切羽を再度掘り進む。このときトンネル工事を担当する土木技術者は「割れ目があるか」「水が出ているか」「粘土質の部分があるか」などの観点から切羽を観察し、鋼材の間隔やボルトの本数などを判断する。

 「地質をどう評価すれば良いか迷う時がある」と畑部長は話す。専門家の助言があれば判断しやすいが、それを待つと工期が伸びる恐れがある。そこで切羽の写真から専門家に近い水準で判断できるAIの開発に取り組んだ。

トンネル断面解析の専門家をAIに
大林組が開発したAI(写真提供:大林組)
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 大林組には過去のトンネル工事現場の切羽ごとに、強度や風化状態、割れ目の間隔、湧水量など7項目について5段階程度で評価した結果と、そのときの切羽の写真をまとめた観察記録があった。「正解」として使える工事現場6カ所の計70切羽の観察記録を選び、画像と地質評価の組み合わせを深層学習の手法で学習させた。AIは切羽の写真をメッシュ状に分割し、1メッシュごとに評価結果を出力する。

 2017年に開発に着手し、2018年夏までに7項目について平均80%程度の正答率を出せるようになった。この秋からトンネル工事現場での実地評価に活用する計画だ。

ベテランの操作を再現

 都市部のトンネル工事などに使われる「シールド工法」向けに専門家代わりのAIを開発したのが清水建設だ。シールド工法は先端にカッターがある円筒形などのシールド機で掘り進めながら、並行して後方の外壁を組み立てていく。掘り進める際には、シールド機の背後にある運転室の操作者が、推力やカッターの回転速度、切羽の圧力など数十項目のデータを見ながら操作する。

 計画図からずれないようにシールド機の進行方向を変えながら掘り進まなければならない。地質の影響で想定外の方向に進んでしまう可能性もあり、シールド機の操作は独り立ちするには10年はかかるとされる。熟練者による操作をAIで再現できれば、熟練者が不在の場合でも工事を止めずに済むと考えた。

 熟練者の操作実績を基にAIが操作内容を提案する仕組みを構築し、九州の下水道トンネル工事で検証を始めた。熟練者が最初の70メートルを掘進した際のシールド機の稼働データと操作実績を1秒ごとに取得。どのような場面でどのように操作したのかをAIに学習させた。2018年6月から工事現場に持ち込み、運転室に設置したディスプレーにAIが推奨する操作内容を表示するようにした。

シールド機操作の熟練者をAIに
清水建設が開発したAI(写真提供:清水建設)
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 清水建設の増田湖一シールド統括部主査は「AI開発に乗り出すまで、シールド機の稼働データは取っていたが操作実績データについては取得していなかった」と振り返る。将来は複数の現場で収集した操作実績のデータを学習させて、地質が異なる複数の現場で使えるAIの開発をめざす。

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