有力企業がAIによる製品やサービスの革新に挑み始めた。既存商品の限界をAIで突き破り、売り上げの拡大につなげる。アシックス、日本水産、ブリヂストンらの取り組みを探る。

 「走る際の歩数と歩幅、どちらも長距離向きですね」。ランニング経験が豊富な店員が客にタブレットを見せながら助言している。アシックスが2018年7月に東京・丸の内に開業したショップ併設型ランニングステーションの様子だ。店内にあるランニングマシンで客に走ってもらい、その様子を撮影するとAIが走行中の歩数や歩幅、上下動、前傾姿勢、腕や脚の振り幅をはじき出す。

 AIがフォームを分析した後は、データを登録済みの市民ランナー約650人の平均値と比べた差異を表示する。店員はその画面を客に見せながら、より良いフォームに改善するためのコツや、適したトレーニング方法、フォームに合ったシューズの選び方などを助言する。

 「スポーツを好きになってもらう体験を提供したかった」。アシックスの西脇剛史取締役は、店頭でフォームを分析するAI「ランニングアナライザー」を開発した理由をこう説明する。

来店を促し購買意欲を刺激

 開発に着手したのは2年前だ。深層学習に基づいて動画内の人の姿勢を推定するオープンソースのライブラリを活用した。一連のシステムを開発した「デジタルR&D」チームを率いる川上和也デジタルR&D部長は「アシックスというブランドへの愛着を高めたい」と期待する。

図 アシックスが開発したAIとその効果
ランニングフォームをAIが客観評価
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 アシックスはこれまでもランニングのフォームや能力を測定する有償サービスを提供してきた。しかし専用の設備を使うため店舗が限られ、費用も1回5000~2万1000円と高い。国内外の店舗戦略を担当するリテール部の崎山亮太氏は「一般のランニング愛好家には利用しづらかった」と振り返る。来店客が気軽に使えて効果的な助言を得られるようになれば「利用者が増えるし、顧客が店舗に来る動機付けになる」(崎山氏)。

 現時点で丸の内の店舗限定で試用サービスを無償提供しており、実用化のメドがつけば米国のデジタル子会社アシックス・デジタルで商用版を開発し、本格展開する計画だ。分析結果を顧客の属性や購入実績のデータと関連付けて管理し、商品やトレーニングメニューの提案につなげることも視野に入れる。

すくわずに魚の大きさを測定

 黒潮の恩恵を受ける宮崎県沖でブリ養殖事業を手掛ける日本水産グループの黒瀬水産は、2018年春からブリの育成状況の判断をAIに任せ始めた。日本水産の屋葺利也養殖事業推進部長は「IT業界の進歩を取り込んで養殖業を進化させる」と意気込む。出荷する魚の品質を高めるほか、AIサービスの外販により日本水産グループの養殖餌販売事業の拡大も狙う。

 魚の養殖では、月1回ほどの頻度でいけす内の魚の大きさを測定する。魚の養殖にかかる期間はブリが2年、マグロが3~4年。その間、成長状況に応じてエサの量を調整しながら水揚げサイズまで効率良く育てていくため、定期的な測定が必要になる。以前は数千匹が泳ぐいけすから数十匹ほどをすくって重さを測っていた。

 しかし、すくい上げると魚に傷が付いたり、ストレスがかかったりする。そこで2眼式の水中カメラでいけす内の動画を撮影し、映った魚の大きさを推測するシステムの導入を進めてきた。ただしソフト上で魚の先端と尾、背と腹のふちの4点を手作業で指定する必要があり、手間がかかるうえに誤差が大きい課題があった。その課題を解決するAIをNECと開発した。

図 日本水産が開発したAIとその効果
魚を引き上げなくても重さが分かる(写真提供:日本水産)
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 AIは、動画に映った大量のブリの中から全身が見えるものを見つける。ゆがみがないようカメラの撮影方向に対して真横を向く魚を選ぶのがポイントだ。続いてその魚の先端と尾、背と腹のふちの4点を自動検出する。AIが出力した魚の4点の情報を測定システムに渡すと、二つのカメラの視差から体長と体高を算出。魚の体重に変換する数式を使って推定体重を計算する。「水揚げ時に実測した結果と比べると、誤差2%以下に収まっている」(屋葺部長)。日本水産はこの技術をマグロ養殖に展開し、マグロ養殖を手掛けるグループ2社に2019年度にも導入する計画だ。

 日本水産グループで養殖用餌の生産販売を手掛けるファームチョイスは、グループ外の養殖事業者に自動測定AIのサービスを提供していく方針だ。餌を販売しているだけでは価格競争に巻き込まれやすい。養殖業者の業務効率を高める付加サービスとして餌販売事業とセットで提供し、売り上げ拡大をめざす。

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