自動翻訳、幽体離脱、セルフ医療、怪力発揮‐‐。画像認識やロボティクス、VRなどの技術進化によって叶いそうな8つの道具を示す。5年後は難しいかもしれないが、10年後つまり2029年には実用化しているはずだ。

坂本龍馬と電話で話せる
架空通話アダプター(チャットボット、対話エンジン)

 「聞いてよドラえも~ん、会社でミスして上司にしかられちゃってさ」「しょうがないなぁ、ちゃんと準備したの?」。作中に登場するのび太とドラえもんの会話ではない。早ければ2029年、あなた自身がドラえもんと話ができる通話サービスが登場するかもしれない。

 ドラえもんのひみつ道具で言うなら「架空通話アダプター」だ。電話機にアダプターを取り付けると、本当は通じていないのに相手が出て話ができる道具である。実在の人物はもちろん、歴史上の人物、アニメや漫画のキャラクターとも話せる。

架空通話アダプター
(出所:©藤子プロ・小学館)
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 キーとなるテクノロジーは自然言語処理音声認識といったAI人工知能)技術と、質問に対する自動応答プログラムのチャットボット技術だ。ある人物の発言録や日常会話をテキストデータにして蓄積し、「この人物ならこう聞かれたらこう答えるだろう」といった受け答えの種類や語彙、言い回し、口癖などを解析する。特定の人格を想定した質問と回答を組み合わせたQAリストと、自動応答システムから成る対話エンジンを作る。用意する人格のバリエーションが多いほど、理想的な架空通話アダプターに近づく。

新宿2丁目のママも再現

 萌芽となるサービスは既にある。対話AIの開発を手掛けるベンチャー、SELFの消費者向け対話アプリだ。AI技術を基に開発した「仮想人格チャットボット」がテキストデータによって利用者と対話を繰り返す。

 独自デザインのロボットに美少女、イケメン男性。同社が用意した仮想人格チャットボットはどれも個性的だ。新宿2丁目のバーで働くママという設定のチャットボットもある。

 「今の仕事でなくても、別の仕事なら輝けるかもしれないじゃない」「自分探し?どうせまだ見つかってないんでしょう」。愚痴を聞く、恋愛や仕事の悩み相談に乗る、過去の経験話や面白い雑談を披露する‐‐。受け答えは本物のバーのママさながらだ。

 ワンパターンの応答を繰り返すだけではない。利用者が入力した選択肢やキーワードに基づいて会話のパターンを変える。過去の会話を記憶し「そういえばダイエットしたいと言ってたけどどうなった?」などと思い出して語りかける。こうしたパーソナライズ機能によって「利用者の意図や心情に寄り添った、極めてプライベートな対話ができる」(SELFの生見臣司社長)。

 SELFはママの会話を再現するため、同社社員が実際にバーに通って10数時間分のママの会話を記録した。会話の文脈や口調、語彙を解析してバーのママの会話情報を収めたライブラリーを作った。

 チャットボットの対話エンジンは共通で、ライブラリーによって会話の内容を仮想人格別に変える。ライブラリーの基になる会話データさえ十分に集まれば、ハリウッドスターやアイドルはもちろん、織田信長や坂本龍馬といった歴史上の人物、さらに言えばドラえもんとの会話さえも「原理的には実現可能だ」(同)。

図 仮想人格チャットボットの進化の過程
より自然でパーソナルな対話を目指して(画像提供:SELF)
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LINE参戦、企業用途に可能性

 SELFは企業用途の開拓を急ぐ。Webサイトやスマホを通じた顧客サポート支援が代表例だ。通信教育大手のベネッセコーポレーションはタブレットを使った中学生向けの学習支援システムに、SELFの仮想人格チャットボットを導入した。同システム独自のキャラクターが会員の中学生に語りかけ、学習を促したり会員を励ましたりする。結果、ログインしたり学習したりする頻度が上がったという。

 仮想人格チャットボットの開発に取り組むのはベンチャーだけではない。LINEは音声自動応答システム「DUET」を開発している。用意する仮想人格は飲食店の店員だ。予約などを電話で受け付ける業務を想定する。

 「もしもし、予約したいんですが」「ありがとうございます。いつのご予約でしょうか」「今週土曜日の夕方6時から、4人でお願いします」「かしこまりました。10月5日土曜日の午後6時に4名様でお待ちしております」。

 このように利用者が店員の仮想人格チャットボットと会話して飲食店を予約できるデモを開発済みだ。音声認識とテキストへの変換、利用者の意図推測のほか、「スロットフィリング」と呼ぶ手法を使った。予約やネット通販など、目的が決まっているサービスにおいて、目的を達成するのに必要な情報が埋まるまで対話を繰り返す手法だ。

 LINEは飲食店向けの予約管理システムを開発・販売するエビソル、飲食店向け集客支援のBespoとそれぞれ実証実験に取り組んで完成度を高め、2020年にも提供を目指す。

会話データの蓄積が鍵

 ただしドラえもんの架空通話アダプターと同水準の機能に達するには超えるべきハードルがある。1つは会話データの蓄積だ。誰もが知る著名人なら過去の発言録や著作、映像記録などから十分な会話データを集められる可能性が高い。しかし再現しようとする人物が一般人に近づくほど、十分な会話データを集めるのが難しくなる。

 他にも音声による会話を人間らしくするための音声合成技術や、利用者の意図をより正しく推測する技術などの開発が欠かせない。

 SELFやLINEが取り組む特定の人格あるいは用途の仮想人格チャットボットに限れば、10年以内にかなりの精度が期待できそうだ。さらにその先は、利用者ごとに登録した人物の仮想人格チャットボットを用意するなど、実現形態の工夫も凝らせばドラえもんの架空通話アダプターの世界により近づくだろう。

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