VR(仮想現実)で恐怖体験を味わわせ安全意識を高める——。そんな取り組みが電機や建設、航空などの業種に広がっている。教育や研修でのVR活用事例とITベンダーが開発したVRシステムの威力を紹介する。

三菱電機
エレベーター昇降路に転落、身をもって知る危険行動

 「それでは1回落ちてみましょう」。インストラクターにそう言われてVR用ヘッドマウントディスプレー(HMD)を装着すると、目の前に扉が開いた状態のエレベーターが現れた。実は扉の枠の向こうには人を乗せるカゴが存在しない。エレベーターに向かってゆっくり進み扉の枠を越えると、何もない空間を踏み抜いて落下。地面にたたきつけられ、血を想起させるような赤色が視界いっぱいに広がった。

 これは三菱電機のエレベーター作業者向け研修に取り入れたVRシステムの一例だ。建物へのエレベーターの設置・納品などを担う据え付け工事の作業者が対象で、1人ずつこのような恐怖体験をする。

 転落事故のほかカゴの下部と建築物に挟まれる事故、カゴ上部と建築物に挟まれる事故のVRコンテンツを研修に使っている。

 三菱電機の下林穣ビルシステム工事統括部工事教育センター工事研修第2G専任は「建築現場で人体に危険が及ぶ可能性のある研修は困難。そこでVRを使うことにした」と話す。

 VRコンテンツの制作に当たっての工夫は、どういう行動がどんな事故に結び付くのかを理解しやすくしたことだ。原因が理解できないと学習を促せないためである。

 恐怖感の調整も工夫の1つ。「必要以上に恐怖感をあおりたくないため生々しすぎる表現や描写は削った」(下林氏)。逆に全く恐怖を覚えないようでは効果が薄いので、一部では血の表現などを利用している。

図 三菱電機がエレベーター工事の安全研修で使うVR画面
エレベーターの昇降路に転落(画像提供:三菱電機)
[画像のクリックで拡大表示]
(画像提供:三菱電機)
[画像のクリックで拡大表示]
(画像提供:三菱電機)
[画像のクリックで拡大表示]
研修の様子
(画像提供:三菱電機)
[画像のクリックで拡大表示]

育成スピードを1年半ほど短縮

 三菱電機は据え付け工事の研修センター「匠」を今年4月に愛知県稲沢市に新設しており、作業者はここでVRを体験する。国内の新人は従来5〜6年の期間を経て職長になるが、VRを含む研修センターを利用することで「育成スピードを1年半ほど短くできる」(三菱電機の夏目隆ビルシステム工事統括部工事教育センター長)。

 今後はVRコンテンツの種類を増やすのに加えARコンテンツの制作も進める。VRとARのコンテンツを通じて作業者の危険に対する感度を上げ、安全な現場づくりを目指す。

この先は有料会員の登録が必要です。「日経コンピュータ」定期購読者もログインしてお読みいただけます。有料会員(月額プラン)は初月無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら