アリババや京東を知っただけで、中国のIT事情を理解したと思うのは早計だ。中国の底力は、むしろ絶え間なく生まれ続ける多数のスタートアップ企業にある。スタートアップ企業の動向を通じて中国の「本当の強さ」を探る。

 「BAT」はもう古い、時代は「TMD」だ――。

 中国の巨大ネット企業の頭文字をとって「B(百度)、A(アリババ集団)、T(テンセント)」と呼ぶのは、先にも書いたようによく知られた話だ。一方、TMDはどうだろう。

 Tは今日頭条(トウティアオ)というニュースアプリのT、飲食店の口コミやフードデリバリーサービスの美団(メイトゥアン)のM、最後のDは滴滴(ディディ)という配車サービスの頭文字だ。

 アリババやテンセントがいずれも1990年代後半に創業している一方、TMDは3社とも2010年以降の創業だ。中国のネット業界が進化を続けられるのは、創業間もないスタートアップ企業が雨後のたけのこのように生まれ、新陳代謝を促しているからだ。

 時計の針を巻き戻すこと約3年前。2015年の全国人民代表大会(全人代)で政府は「大衆創業・万衆創新」というスローガンを用いた政策を発表した。創業活動を支援することで雇用を拡大し、イノベーション(創新)で経済成長を促すとの内容だ。

ユニコーン企業数で米国超えか

 中国のスタートアップ企業は、今まさに政府が描いたシナリオ通りに成長している。中国国務院によれば、2017年の新規企業登録数は607万社に及んだという。1日平均1万6600社、5.2秒に1社が起業している計算だ。2年前と比べて4割増である。

 スタートアップ企業の動向を調査する米CBインサイツの統計によれば、評価額が10億ドル(約1100億円)を超える企業、いわゆるユニコーン企業は既に中国内で70社を超えたという。ユニコーン大国、米国の半数を超えるところまで迫ってきた。

図 評価額が10億ドルを超える未上場企業の数
ユニコーンの数は米国に迫る(出所:米CBインサイツ)
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 既にユニコーン企業の数は米国を超えているという見方もある。中国でコンサルティングを手がける板谷工作室の板谷俊輔CEO(最高経営責任者)は「米CBインサイツの統計はドル建てで資金を調達した企業が中心で、恐らく中国大手のスピンオフ企業や人民元建ての企業が入っていない。それらを入れればユニコーン企業の数は120社を超えているはず」と分析する。

 世界のユニコーン企業の上位10社を見れば、中国における起業の勢いは明らかだ。10社中5社が中国企業であり、その5社すべてが2010年以降の創業と若い。中国のユニコーン企業のうち、口コミサイトやフードデリバリーを展開する美団点評と、個人間の融資仲介プラットフォームを運営する陸金所は2018年中の上場も噂される。

図 評価額トップ10のユニコーン企業の創業年と、ユニコーン入りの時期、評価額の一覧(2018年6月29日現在)
評価額トップ10の中国ユニコーン企業はどれも2010年以降創業
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 中国版ウィーワークといわれるシェアオフィスなどを運営する納什空間の張剣CEOによれば、同社が手がけるスタートアップ企業向け賃貸オフィスの契約率は常に90%を上回っているという。同社は通信環境やインテリアなどをそろえた賃貸スペースを提供する。「新しい場所の提供を開始すると、すぐに契約者が決まっていく状況」(張CEO)だと話す。

 急速に成長し、新陳代謝を繰り返しながらスタートアップ企業を生み出す中国市場にとって、もはや米国市場は目標ではなくなっているとの指摘も多い。アクセンチュア中国の黄欣卓マネジングディレクターは「数年前までは米国のサービスを中国に応用していたが、今は逆。中国のサービスを諸外国に持ち出している状況だ」と話す。

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