国内のメガバンクとゆうちょ銀行の合計を上回る台数のATMを運用し、日本のセブン-イレブンの20倍以上のPOS端末を管理する――。知られざる日立のインド事業。そこにはGAFAの先を見据えた壮大な野望がある。

 インド最大の都市、ムンバイ。地場のアパレル店「FIRST CHOICE 1」の店員、リテシュ・パテルさん(21)は手元のPOS(販売時点情報管理)端末を慣れた手つきで操作し、スマートフォンを使ったQRコード決済の処理を終えた。「現金を管理する手間が省けるので便利だ」と笑顔を見せる。

 ありふれた日常の光景だが、この処理を「HITACHI」が支えている事実はほとんど知られていない。日立製作所が2014年に買収したインドの決済サービス大手、プリズムペイメントサービス(現日立ペイメントサービス)を通じて銀行のATMやPOSの運用・保守サービスを提供しているのだ。

 機器の運用・保守を請け負うだけではない。銀行やクレジットカード事業者のシステムと各ATMやPOSの決済処理を中継するサービスも手掛ける。2019年1月にはインド最大手の国営商業銀行であるインドステイト銀行(SBI)と合弁会社を設立。POSの決済データを分析し、次世代の金融サービスを開発しようとしている。

 日立の東原敏昭社長は合弁会社設立について「日立ペイメントの事業拡大だけを狙っているわけではない。Lumadaでデータを分析して関連サービスを拡大したい」と話す。

 Lumadaはilluminate(照らす)とdata(データ)を組み合わせた造語で、顧客のデータから価値を創出するソフトウエアやサービス全般を指す。日立が強い製造業の顧客を中心に、IoT(インターネット・オブ・シングズ)によるデータ収集・分析のソフト基盤や導入サービスなどを提供している。

 だが、日立の経営陣が構想するLumadaの姿はそれだけにとどまらない。金融や流通など広範な業界を対象に、時には顧客と共に事業を興し、データ分析において顧客のビジネスを成長させ、日立自身も利益を上げながら、関連する技術や製品、サービスに磨きをかける。

 Lumadaという構想を打ち出し、日立全体のビジネスモデルを「ものづくり」から「サービス」へとシフトし、製造業の発想に慣れた従業員に意識改革を促す。製品を作って売る「プロダクトアウト」から顧客のニーズに応じてサービスを組み立てる「マーケットイン」型に会社の全ての機能を変える。SBIとの取り組みは日立の将来を占う試金石となる。

ATM6万台、POS100万台運用

 既に日立ペイメントは現金と非現金(キャッシュレス)決済の両面で、インドに不可欠な存在だ。2019年2月時点でATM約6万台、POS約100万台を運用し、ATMの台数でみれば日本のメガバンクとゆうちょ銀行の合計保有台数を上回る。POSは国内コンビニ最大手のセブン-イレブン・ジャパンの20倍以上の規模だ。日立が買収した2013年度の売上高は78億ルピー(約120億円)だったが、2018年度は180億ルピー(約280億円)と2倍以上に増えた。

図 インドにおけるATMとPOSの運用サービスの仕組み
6万のATMと100万台のPOSを運用
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 日立ペイメントはATM事業について、金融機関向けに5つのサービスメニューを用意している。独特なのが「ホワイトラベル(共同利用型)」と呼ばれる日立ブランドのATMを展開している点だ。設置場所の選定から資産の保有、運用、保守まで全て自前で手掛ける。まるで「日立銀行」だ。

図 日立ペイメントサービスが提供するATMの運用サービス
5つのサービスメニューを用意(注:日立の資料を基に日経コンピュータ作成)
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日立ブランドで展開する「ホワイトラベルATM」
(ホワイトラベルATM:銀行以外の業態が展開する共同利用型のATM)
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 ホワイトラベルATMの収益力を左右するのが、設置場所の選定だ。ここで威力を発揮するのが、独自開発した「ワーク・ベンチ・マネジメント・システム」だ。他社の端末を含めてATMの設置場所などを分析し、立地に適した候補地を絞り込む。

 例えば田舎や郊外で地下鉄が通っていない地域の方が都市部よりもATMの処理件数が多く、現金需要が旺盛であることが分かってきた。日立ペイメントはこうした地域へホワイトラベルATMの設置を進めている。

 ホワイトラベルに限らず、ATMの収益力を上げるには現金補充の効率性を高めることも欠かせない。新たに設置するATMのうち、インドでは入金した紙幣を出金に再利用できないタイプが7割以上を占めている。補充する金額やタイミングを誤れば、容易に現金切れをおこし、機会損失につながる。

 日立ペイメントは現金の減り具合を予測する「キャッシュ・マネジメント・ツール」を独自開発した。全ATMについて、主に直近3カ月分の入出金データを分析し、最適な補充額を割り出している。

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