“I grabbed here.”シンガポールの街角ではこんな英語が飛び交う。grabという動詞はここでは「つかむ」という一般的な意味ではない。「グラブの配車サービスを利用する」という意味だ。日本語で言うなら「タクシーに乗る」を意味する「タクる」に近い。

 しかしその使い勝手の良さは日本のタクシーとは比べものにならない。グラブが提供するMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)は、タクシードライバーに加えて一般人が運送を担う「ライドシェア」だ。スマートフォンのアプリケーションから配車を手配すると1分もかからずに車が決まり、4~5分ほどでやってくる。運賃は乗車前に確認できるし、支払いは電子決済だ。「東南アジアはタクシーのぼったくりに注意」など過去の話だ。

 しかもグラブのサービスは東南アジア8カ国336都市で利用可能だ。シンガポール在住のビジネスパーソンがタイのバンコクに出張し、スマホに入れたグラブのアプリでライドシェアを利用しながら営業先を回るのは日常茶飯事。バンコク名物の渋滞を避けたいなら、二輪車の配車サービスを利用する手もある。「もうグラブなしの仕事や生活は考えられない」。東南アジアで働く人々は口々に語る。

図 グラブの事業エリアと発展の経緯
創業7年で8カ国進出、あらゆる生活シーンをカバー
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利用者は1億4400万人超

 マレーシアで2012年に創業し現在はシンガポールに本社を置くグラブのアプリは、ダウンロード数1億4400万超で乗車回数は30億超。東南アジアで稼働するスマホの4台に1台の割合でインストールされている。ほぼ同時期に創業したインドネシアの配車大手ゴジェックとともに、数年間で東南アジアの人々の生活を一変させた。2018年3月には激しいシェア争いをしていた米国のライドシェア最大手、ウーバー・テクノロジーズの東南アジア事業をグラブが買収した。

 グラブは詳細な財務内容を公開していないが売上高は年換算で11億ドル(約1200億円)以上だという。米調査会社のCBインサイツによると、グラブの推定企業価値は2019年1月時点で140億ドル(約1兆5333億円)。世界に18社しかない「デカコーン」、つまり推定企業価値が100億ドル以上の未公開企業の1社に躍進した。

 グラブのMaaSは四輪車や二輪車のライドシェアにとどまらない。地域のニーズに合わせて地元のタクシー会社と提携したり、電動キックボードを貸し出したりしている。近年はレストランからのフードデリバリーや小包の配達、生鮮品の宅配など生活に密着したサービスも拡充している。

 サービスの担い手は900万人以上の登録個人事業主だ。ライドシェアの運転手やフードデリバリーの配達人、レストランの店主などが従業員ではなく個人事業主としてグラブと契約する。

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