AIがオフィスに入り込む2030年に向け、人と組織は何をすべきか。人はAIが解けない難題を解決するスキルを身に付ける必要がある。組織はイノベーションを生み出すカルチャー(文化)を作れるかが鍵となる。

 野村総合研究所(NRI)における調査研究の成果を基に、2030年のオフィスや組織のあり方を解説する本連載は今回が最終回となる。AI(人工知能)時代の到来に向けて、人と組織がどのように動き始めればいいかを考えてみたい。まず連載で描いてきた2030年のオフィスと組織の姿を振り返ろう。

 2030年にはAIやロボットの活用が進み、人や組織の役割が変わる。AIが「人の仕事を奪う」のではなく、AIによって「人が担うタスクが変わる」と捉えるべきだ。

2030年のオフィスはAIと共存

 人は人ならではの価値を発揮することに専念でき、提供する付加価値が高まる。その状態をオーグメンテーション(拡張)と呼ぶ。人の付加価値が高まると、組織全体の生産性や効率、売上高、顧客や従業員の満足度などが向上するレバレッジにつながる。

 AIの導入により、人は創造的な思考やソーシャルインテリジェンスが必要な非定型のタスクを主に担うようになる。レスポンシビリティやミッションといった、人ならではの役割(ロール)が重要になり、中間管理職をはじめとするミドルマネジャーに変化の圧力がかかる。そのことを「現在のミドルマネジャーが担う業務の47%は業務のスリム化とAIで代替できる」との推計によって裏付けた。

 AIによる仕事の変化は雇用形態にも影響を与える。日本企業で一般的なのは人にジョブ(職務)をアサインする「メンバーシップ型雇用」である。2030年に向け、ジョブに人をアサインする欧米式の「ジョブ型雇用」にシフトしていくとみられる。日本なりのジョブ型雇用を模索しつつ、HR Techなど最新テクノロジーの導入や業務の再設計を進める必要がある。

 組織は総合職人材よりも、AIで代替できないスキルを持つ専門職人材を求めるようになる。そうした人材を引き付け、活躍できるようにするにはダイバーシティ&インクルージョンを組織に浸透させることが大切だ。人種や国籍にとどまらず、価値観の多様化が必要になる。

 組織が集めた多様な人材は、創造的な思考やソーシャルインテリジェンスを必要としない定型的なタスクやジョブをAIに任せて、それぞれの得意分野に注力できる。結果的に、組織のピラミッドは意思決定を担うトップマネジメントと、フロントに立つ専門職人材のみで構成するコンパクトでフラットな構造を取る可能性がある。

VUCAに立ち向かうスキルが必要

 AIと共存する未来のオフィスに向けて、我々はこれから何をしていくべきか。この問いは「イノベーションを起こす組織にしていくにはどうすればいいか」とほぼ同義だと言える。まず個人について考えてみよう。

 AIやロボットが単純な定型業務を代替した結果、新事業の構想を練る、社内外のトラブルに対応する、人材マネジメントを進める、といった難しい仕事が残ることになる。どれも非定型の業務であり、複雑で曖昧な問題への対応が求められる。こうした問題の複雑さをVUCA(Volatility:変動的、Uncertainty:不確実、Complexity:複雑、Ambiguity:曖昧)と呼ぶ。

 マニュアル化できるロジカルな対応で解決できる問題なら、AIやロボットに任せられる。それ以外のVUCAに属する問題は2030年になっても人が対応しなければならないだろう。

 とはいえ、こうした難題を誰もが解けるわけではない。「VUCAの問題に対処するためのスキルやテクニックをいかに習得するか」が主要な課題となる。習得すべきスキルの有力候補はデザイン思考(デザインシンキング)だ。

デザイン思考が有力な武器に

 デザイン思考はユーザーの課題を起点に問題の本質を探る思考プロセスを指す。ユーザーの課題に着目して問題を定義し、グループ議論や思考フレーム、プロトタイプによる試行などを通じて問題の解決方法を見い出していく。イノベーションのための手法として活用例も多い。

図 デザイン思考への期待が高まる背景
ユーザー中心設計の考え方が必要に
(出所:「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか」(山口周著)を基に筆者作成)
[画像のクリックで拡大表示]

 デザイン思考はアーティストの思考や感性を活用するというイメージが強い。だが重要なのは問題の本質を見極て課題を定義し、課題を解くためのプロセスを設計できる点にある。あらゆる問題を解決できる万能薬ではないにしても、課題解決の道筋を考えるうえで有用な手法だとみなせる。

 米アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏のひらめきを再現する手法だとも言われる。ジョブズ氏の思考過程をデザイン思考で再現すれば、凡人であってもひらめきを起こせる確率が高まるという主張だ。

 筆者の解釈としては、デザイン思考は直感やセンスといったアーティストが持つ思考だけを指すわけではない。そうした要素を活用して洞察を深めたうえで、エンジニアリングのアプローチで検討を進める「Process design of thinking」を意味すると捉えられる。ロジカルな思考プロセスから派生した位置にデザイン思考があると言える。

 人がVUCAの課題に立ち向かう必要が出てくるAI時代において、デザイン思考の考え方は汎用的に有用な能力になるだろう。このスキルはトレーニングを通じて習得できる。

この先は有料会員の登録が必要です。「日経コンピュータ」定期購読者もログインしてお読みいただけます。今なら有料会員(月額プラン)が4月末まで無料!

日経 xTECHには有料記事(有料会員向けまたは定期購読者向け)、無料記事(登録会員向け)、フリー記事(誰でも閲覧可能)があります。有料記事でも、登録会員向け配信期間は登録会員への登録が必要な場合があります。有料会員と登録会員に関するFAQはこちら