日本におけるサービス業の生産性は他国よりも低い。接客のエキスパートが雑務に追われ、能力を十分に発揮できないのが一因だ。AIを使えばエキスパートの負荷が減り、スキルを生かした業務に専念しやすくなる。

 この連載は野村総合研究所(NRI)における調査研究の成果を基に、2030年のオフィスや組織のあり方を解説している。前回は製造業におけるAI(人工知能)活用の未来を取り上げた。今回は小売りや医療・看護などのサービス業に焦点を当てる。

 サービス業は一般に労働生産性が低いというイメージが強い。特に対面で個人や事業所などに直接サービスを提供する業種は労働集約的で、デジタルによる効率化や生産性向上があまり進んでいない。日本生産性本部によると、日本のサービス業における労働生産性は米国の約半分にとどまる。現状では海外と比べても生産性が低いと言わざるを得ない。

 要因としては過剰なサービスや無料サービスの過度な提供、IT投資の遅れ、人材の非効率な配置などが挙げられる。このうちIT投資の遅れと人材の非効率な配置に注目し、サービスの前線に立つスタッフの業務やスキルがAIの導入によってどう変わるのかを見ていく。

顧客の希望を的確に見極めて対応

 サービス業のフロント業務を担うスタッフはまず、顧客が何を求めているのかを的確に把握するスキルが求められる。そのニーズに応じて、顧客1人ひとりに最適化した形でサービスを提供するスキルも必要だ。

 昨今は業種を問わず、顧客の価値観が「モノ消費重視」から「コト消費重視」へとシフトしつつある。モノの購入よりもサービスの体験を重んじる流れだ。サービス業のスタッフはこのトレンドを踏まえて、コト消費に関わる顧客のニーズを見極めていくことが大切になる。

 理想的なスタッフ像は例えば以下のようなものだ。顧客との会話を通じて、相手に共感しつつニーズに関する本音を聞き出す。同時に性格や好み、習性、健康状態、気分といった顧客の特徴を把握する。その上で顧客のニーズと特徴に最も合う商品やサービスを導き出して、相手に薦める。

 小売業では百貨店の「買い物コンシェルジュ」がこの理想像に近い。来店した顧客の希望や困りごとを把握するために、コンシェルジュは会話を通じて趣味や好み、来店の目的などを聞き出す。衣料品の販売担当であれば、自らが持つトレンドやコーディネートの知識と聞き出した顧客の情報を掛け合わせて、最も喜びそうなファッションコーディネートを提案する。

 顧客がコーディネートを気に入れば、コンシェルジュを信頼するようになり、アドバイスを求めて再び来店してくれる可能性が高まる。

 医療の現場では、患者に寄り添う医師や看護師が理想像と言える。患者が記入した問診票から情報を得るとともに、患者との対話を通じて情報が正しいか、漏れがないか、問診表に書かれていない情報があるかを確認・収集する。この結果と検査データなどを合わせて症状や病名を判断する。

 医師は病状に加えて患者の個性や置かれた状況などを考慮して治療方針を決め、患者が理解しやすい言葉で伝える。それによって、患者は納得して治療に取り組めるようになる。医師と看護師による診断や治療に「十分納得できる」と患者が実感できれば、高い満足度や信頼を得られるはずだ。

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